・・・ やがて四阿の向うに来ると、二人さっと両方に分れて、同一さまに深く、お太鼓の帯の腰を扱帯も広く屈むる中を、静に衝と抜けて、早や、しとやかに前なる椅子に衣摺のしっとりする音。 と見ると、藤紫に白茶の帯して、白綾の衣紋を襲ねた、黒髪の艶・・・ 泉鏡花 「伊勢之巻」
・・・ 屈むが膝を抱く。――その時、段の隅に、油差に添えて燈心をさし置いたのである。――「和郎はの。」「三里離れた処でしゅ。――国境の、水溜りのものでございまっしゅ。」「ほ、ほ、印旛沼、手賀沼の一族でそうろよな、様子を見ればの。」・・・ 泉鏡花 「貝の穴に河童の居る事」
・・・紺服の役人はメリケン粉のからふくろを手に団子のように捲きつけていましたが少し屈むようにしました。 私たちは行こうとしました。すると黒服の役人がうしろからいきなり云いました。「おいおい。おまえたちはここでその蕈をとったのか。」 ま・・・ 宮沢賢治 「二人の役人」
出典:青空文庫