・・・菊池なぞは勿論、前者に属すべき芸術家で、その意味では人生のための芸術という主張に縁が近いようである。 菊池の小説も、菊池の生活態度のように、思切ってぐん/\書いてある。だから、細かい味なぞというものは乏しいかも知れない。そこが一部の世間・・・ 芥川竜之介 「合理的、同時に多量の人間味」
・・・Stilling 教授が挙げているトリップリンと云うワイマアルの役人の実例や、彼の知っている某M夫人の実例も、やはり、この部類に属すべきものではございませんか。 更に進んで、第三者のみに現れたドッペルゲンゲルの例を尋ねますと、これもまた・・・ 芥川竜之介 「二つの手紙」
・・・死生の際が人情の極致を発露する時なりとして詩歌に、小説に、美文に採用せられ、歌はれ、描かれ写されつゝあるは、通例の事に属す。独り国民を挙つて詩化し満目詩料ならざるなく、国民品性の極致を発露し口を開いて賛すべく、嘆すべく、歌ふべく、賦すべきの・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・めおいたる虎の子をぽつりぽつり背負って出て皆この真葛原下這いありくのら猫の児へ割歩を打ち大方出来たらしい噂の土地に立ったを小春お夏が早々と聞き込み不断は若女形で行く不破名古屋も這般のことたる国家問題に属すと異議なく連合策が行われ党派の色分け・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・草嫩堪レ充レ茵 草は嫩く茵に充るに堪う葭短不レ碍レ舸 葭は短く舸も碍げず撥二百冗一以遊 百冗を撥りて以て遊ぶ 中略 中略清和属二首夏一 清和は首夏に属す境勝固天真 境の勝ること・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・ もっともモーパサンのは標題の示すごとく、逗留二十五日間の印象記という種類に属すべきもので、プレヴォーのは滞在ちゅうの女客にあてたなまめかしい男の文だから、双方とも無名氏の文字それ自身が興味の眼目である。自分の経験もやはりふとした場所で・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・ マルクスに依ると、風力が誰に属すべきであるか、という問題が、昔どこかの国で、学者たちに依って真面目に論議されたそうだ。私は、光線は誰に属すべきものかという問題の方が、監獄にあっては、現在でも適切な命題と考える。 小さな葉、可愛らし・・・ 葉山嘉樹 「牢獄の半日」
・・・けだしこの類の愉快は、形体に関係なくして精神に属す。形体にありては安楽と称し、精神にありては愉快という。その文字異なりといえども、結局平安の主義に洩れざるものなり。 また、今の我が日本にて新政府を建て、今日もっぱら社会の平安を欲して焦思・・・ 福沢諭吉 「教育の目的」
・・・ 例えば支那流に道徳の文字を並べ、親愛、恭敬、孝悌、忠信、礼義、廉潔、正直など記して、その公私の分界を吟味すれば、親愛、恭敬、孝悌は、私徳の誠なるものにして、忠信、礼義、廉潔、正直は、公徳の部に属すべし。けだし忠信以下の箇条も固より家内・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・歌に景曲は見様体に属すと定家卿もの給うなり。寂蓮の急雨定頼卿の宇治の網代木これ見様体の歌なり。とあり。景気といい景曲といい見様体という、皆わが謂うところの客観的なり。もって芭蕉が客観的叙述を難しとしたること見るべし。木導の句悪句には・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
出典:青空文庫