・・・川は水がなかったんで、その川床にずらりと並んで敵の眼を暗ました。鳥渡でも頸を突き出すと直ぐ敵弾の的になってしまう。昼間はとても出ることが出来なかった、日が暮れるのを待ったんやけど、敵は始終光弾を発射して味方の挙動を探るんで、矢ッ張り出られん・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・地震の割れ目か、昔の川床か、もっとよく調べてみなければ確かな事はわからない。線にあたった人はふしあわせというほかはない。科学も今のところそれ以上の説明はできない。 震央に近い町村の被害はなかなか三島の比ではないらしい。災害地の人々を思う・・・ 寺田寅彦 「時事雑感」
・・・しかしタリム川の急に曲がった所から東のほうへかけてまさしく干上がった川床らしいもののある事に注意した。一九〇〇年に、もう一度そこへ行ってこの旧河床の地図を作り、これが昔のタリムの残骸である事を結論した。それからもう一度ロプ・ノールへ行ってよ・・・ 寺田寅彦 「ロプ・ノールその他」
・・・実際こんなに川床が平らで水もきれいだし山の中の第一流の道路だ。どこまでものぼりたいのはあたりまえだ。向うの岸の方にうつろう。「先生この岩何す。」千葉だな。お父さんによく似ている。〔何に似てます。何でできてますか。〕だまっている。〔わ・・・ 宮沢賢治 「台川」
・・・ サラサラした水は快く彼等の軟い胸毛を濡して、鯱鉾立ちをする様にして、川床の塵の間を漁る背中にたまった水玉が、キラキラと月の光りを照り返した。 バシャバシャと云う水のとばしる音、濡れそぼけて益々重くなった羽ばたきの音、彼等の口から思・・・ 宮本百合子 「一条の繩」
・・・ その日は暮れ方から風がやんで、空一面をおおった薄い雲が、月の輪郭をかすませ、ようよう近寄って来る夏の温かさが、両岸の土からも、川床の土からも、もやになって立ちのぼるかと思われる夜であった。下京の町を離れて、加茂川を横ぎったころからは、・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
出典:青空文庫