・・・ 同行二人谷譲次氏は新世界巡礼の途についた。そして Mem タニが女性の適応性によって、キャパンの流行巴里料理を通じ熱心に one of them たろうとする時 Mr. タニは更に一層の熱をもってロンドン日本料理店献立表を報告した。・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・法 面白うお聞申いたから出ませぬじゃ。順礼に参った老人にきいた話でござるがかなり面白い事じゃ程に御きかせ致さいでは叶わぬのじゃ。 何でも南の国での事じゃったと申して居りまいたがの、 天井には黄金をはりつめて床には香り高い木を張・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・彼が屋根裏で、台所の隅で、祖母から聞いた古代ロシアの伝説、盗賊や順礼の物語は、みずみずしく記憶にきざみつけられたのみか、ゴーリキイの初期の創作のうちに反映しているほどである。 祖父はやがて染物工場を閉鎖した。伯父の一人は自殺し、一人は家・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・祖父の留守の夜の台所の炉辺の団欒で、或は家じゅうを巻きこむ狂気騒ぎから逃げ込んで屋根裏の祖母さんの部屋の箱の上で、ゴーリキイが話して貰った古代ロシアの沢山の伝説、盗賊や巡礼の物語は、息づまる生活の裡からゴーリキイの心に広い世の中の様々な出来・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
・・・「ラニー・バッドの巡礼」「アメリカを支配する六十家」その他をよむひまがないとしたら、残念なことである。 世界の多くの文学者は、科学について素人であり、たまに小説の中へ科学をとり入れたとき、科学そのものの描写では屡々専門家に指摘される失敗・・・ 宮本百合子 「私の信条」
・・・ 今からもう十八年の昔になるが、自分は『古寺巡礼』のなかで伎楽面の印象を語るに際して、「能の面は伎楽面に比べれば比較にならぬほど浅ましい」と書いた。能面に対してこれほど盲目であったことはまことに慚愧に堪えない次第であるが、しかしそういう・・・ 和辻哲郎 「能面の様式」
出典:青空文庫