・・・だが産んだばかりの卵は持って行く余裕がなかったと見えて、巣箱に卵がころがっていた。兵士は、見つけると、ばい取りがちをし乍ら慌てて残されたその卵をポケットに拾いこんだ。 三 山の麓のさびれた高い鐘楼と教会堂の下に麓・・・ 黒島伝治 「パルチザン・ウォルコフ」
・・・公園の樹の梢へつるす鳥の巣箱を小学校の子供は手工でこしらえる仕度をし、中央児童図書館では、一つの本棚が五ヵ年計画、集団農場、国営農場、その他一般農作と春の動植物についての本でおきかえられた。 ――これが我々に一番骨の折れる、大切な仕事な・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・線路沿いの三角の空地のところに、段々の巣箱をつくってそのなかにアンゴラや何かがいます。去年は雨が多すぎて兎の体にわるかったそうですが、今年は又土瓶水という有様で、兎はどうだったでしょう。 うちの鶏は、夏の間も毎日二つずつぐらい玉子を生ん・・・ 宮本百合子 「二人の弟たちへのたより」
・・・そういう人間用の巣箱を「わが家」と呼んで、近代社会の何千万人が、せせこましい、律気な、名のない大衆としての生活を送っているのです。 日本の家――ヨーロッパ人が木と紙の住居と言って驚く日本の、弱い、こまかい、自然に対してそう無防禦な家々は・・・ 宮本百合子 「よろこびの挨拶」
出典:青空文庫