・・・高く、学校はあたかも塵俗外の仙境にして、この境内に閉居就学すること幾年なれば、その年月の長きほどにますます人間世界の事を忘却して、ひそかにこれを軽蔑するがゆえに、浮世の人もまた学者とともに語るを厭い、工業にも商売にもこれとともに事をともにせ・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾学生諸氏に告ぐ」
・・・一身一家の不始末はしばらくさしおき、これを公に論じても、税の収納、取引についての公事訴訟、物産の取調べ、商売工業の盛衰等を検査して、その有様を知らんとするにも、人民の間に帳合法のたしかなる者あらざれば、暗夜に物を探るが如くにして、これに寄つ・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・しかるに楽天の徒歩旅行というのはあるいは政治経済の事より教育の事、工業の事を記し、あるいは旅行里程宿泊料等個人的のものをも記し、あるいは衣服飲食などを論じて菓子の品評さえする事もある。その目的は実に複雑であって、そうして一日の記事を凡そ新聞・・・ 正岡子規 「徒歩旅行を読む」
・・・そこで県工業会の役員たちや、工芸学校の先生は、それについていろいろしらべました。そしてとうとう、すっかり昔のようないいものが出来るようになって、東京大博覧会へも出ましたし、二等賞も取りました。ここまでは、大てい誰でも知っています。新聞にも毎・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
・・・つまり今日の資本主義社会の個人的な経済競争の中で、中小工業者が苦しいとおり、婦人画家の経済上、芸術上独立的な生活というものは非常に困難になってきている。画家の生活全体が困難になって、ごく少数の大家――その人の絵をもっていれば、やがて値が出て・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・日本の紡績工業者は、新卒業子女の大部分に当る十万八千三百六十八人を就職させようとしているが、日本の紡績工業界は永年、少女たちを搾取する傾向で世界に有名である。このような封建的な思想を違法とするいくつかの法律がきめられたが、少女たちも親たちも・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・吉田首相がどんなに綺麗な白足袋をはいているかということではなくて、続々と失業させられている労働者の食べられるもの、着ていられるものは何か、田圃で働いている人々、苦しい中小商工業の人々の生活で、赤坊の着ているものはどういうものかということに、・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・けれども、時局の要求する生産拡充への大努力によって重工業、化学、食料、織縫などには、大量に女の力が吸収されつつある。全国に十万人も熟練工が不足を告げているという事実は、今日の大問題とされているのである。処々の大工場、実務学校などで熟練工の養・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・都会の工業生産と、労働者との姿が巨大に素朴にかかれている。 閲兵式につづいてデモはモスクワ全市のあらゆる街筋から、この赤い広場に流れこむ。 日が暮れて、すべてのデモが解散した後も、ここはまだ一杯の人出である。レーニン廟の板がこいの壁・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・またもし工業労働者のみの利益を主張して他の国民の志を阻止しようとするならば、もちろんそれも違勅である。万民志を遂ぐるという理想的な境地に達するためには、どの階級も多少ずつは犠牲を払わなくてならぬ。しかし公平に言って、特権階級が特に多くの犠牲・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫