・・・一、官に学校を立つれば、金穀に差支えなくして、書籍器械の買入はもちろん、教師へも十分に給料をあたうべきがゆえに、教師も安んじて業につき、貧書生も学費を省き、書籍に不自由なし。その得、一なり。一、官には黜陟・与奪の権あるゆえ、学校の法・・・ 福沢諭吉 「学校の説」
・・・ この符牒をさえ心得れば、たといむつかしき文法は知らずとも、日用の便利を達するに差支えはなかるべし。文法の学問、はなはだ大切なりといえども、今日の貧民社会、まず日用を便じて後の学問ならずや。五十韻を暗誦して、いろはを知らざる者は、下足番・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・ 処が、日本の文章にはこの調子がない、一体にだらだらして、黙読するには差支えないが、声を出して読むと頗る単調だ。啻に抑揚などが明らかでないのみか、元来読み方が出来ていないのだから、声を出して読むには不適当である。 けれども、苟くも外・・・ 二葉亭四迷 「余が翻訳の標準」
・・・ですから斯う云う旅行のはなしを聞くことはみなさんにも決して差支えありませんがあんまり度々うっかり出かけることはいけません。 まあお話をつづけましょう。なあにほんとうはあの茨やすすきの一杯生えた野原の中で浜茄などをさがすよりは、初めから狐・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・動物には意識があって食うのは気の毒だが、植物にはないから差し支えないというのか。なるほど植物には意識がないようにも見える。けれどもないかどうかわからない、あるようだと思って見ると又実にあるようである。元来生物界は、一つの連続である、動物に考・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
服装に就いての趣味と云っても、私は着物の通人ではないから、あれがいいとか、こんな色合は悪いとかは云えない。要するに着ているそのひとに合っていればいい。種々変った型、色、等があって差し支えないということは、恰も同一の個性が人・・・ 宮本百合子 「二つの型」
・・・「こっちで為事をするのに差支えないようにと思って、中には読んで見る方の本でない、物を捜し出す方の本も買って帰ったものですから、嵩が大きくなりました。」「ふん。早く為事に掛かりたかろうなあ。」 秀麿は少し返事に躊躇するらしく見えた・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・様子は変っていても、こんな静かな、同じことを繰り返すような為事をするには差支えなく、また為事がかえって一向きになった心を散らし、落ち着きを与えるらしく見えた。姉と前のように話をすることの出来ぬ厨子王は、紡いでいる姉に、小萩がいて物を言ってく・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
・・・ 検閲官は芸術の解らない人であっても差支えない。彼の職務は或る作品がいかなる芸術的価値を持つかを定めることではなく、ただそれが公開される場合に公衆に対していかなる影響を及ぼすかを精確に判定し、その影響が社会の秩序を紊乱し善良な風俗を壊乱・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
・・・ちょうどその日に何か差支えでもあれば、変な結果になるわけであったが、その時には私はその点を少しも心配していなかったように思う。電話では、喜んでお待ちするとの返事であった。で私は、自分の突飛さをほとんど意識することなしに、自分の計画の成功を喜・・・ 和辻哲郎 「漱石の人物」
出典:青空文庫