・・・夏至の日に天井の穴から日が差し込むという事だけはよくわかった。ステインドグラスの説明には年号や使徒の名などがのべつに出て来たが、別に興味を動かされなかった。塔の屋根へ登って見おろすと、寺の前の広場の花壇がきれいな模様になっている事がよくわか・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・成程、気がつかなかったら家は西向で、午後になると、日が、真正面から座敷一杯に差し込むのである。 困ったことだ、と思った。自分は、ひどく眩ゆいのを嫌う。どうするか、と案じた。が、もう、それを云っても仕方がない。 動くと気分悪く、神経的・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
・・・ 廊下の硝子障子から差し込む雪明りで、微かではあるが、薄暗い廊下に慣れた目には、何もかも輪郭だけはっきり知れる。一目室内を見込むや否や、お松もお花も一しょに声を立てた。 お花はそのまま気絶したのを、お松は棄てて置いて、廊下をばたばた・・・ 森鴎外 「心中」
出典:青空文庫