・・・坐るが早いか、『サア聞いてくれ、私はもうどうしても勘弁がならんのだ』と、それから巻舌で長々と述べ立てましたところを聞きますと、つまりこうなんです、藤吉がその日仲間の者四五人と一しょにある所で一杯やりますと、仲間の一人がなんかのはずみから・・・ 国木田独歩 「女難」
・・・ 江戸っ子らしい巻舌で一夜の宿を求め、部屋に案内されるや、すぐさま仰向に寝ころがり、両脚を烈しくばたばたさせ、番頭の持って行った宿帳には、それでもちゃんと正しく住所姓名を記し、酔い覚めの水をたのみ、やたらと飲んで、それから、その水でブロ・・・ 太宰治 「犯人」
・・・ 博士はそろそろ巻舌になって来た。博士は純粋の江戸子で、何か話をして興に乗じて来ると、巻舌になって来る。これが平生寡言沈黙の人たる博士が、天賦の雄弁を発揮する時である。そして博士に親しい人々、今夜この席に居残っているような人々は、いつも・・・ 森鴎外 「里芋の芽と不動の目」
出典:青空文庫