・・・ コリント風の柱、ゴシック風の穹窿、アラビアじみた市松模様の床、セセッションまがいの祈祷机、――こういうものの作っている調和は妙に野蛮な美を具えていました。しかし僕の目をひいたのは何よりも両側の龕の中にある大理石の半身像です。僕は何かそ・・・ 芥川竜之介 「河童」
・・・一面の焼野原、市松の浴衣着た女が、たったひとり、疲れてしゃがんでいた。私は、胸が焼き焦げるほどにそのみじめな女を恋した。おそろしい情慾をさえ感じました。悲惨と情慾とはうらはらのものらしい。息がとまるほどに、苦しかった。枯野のコスモスに行き逢・・・ 太宰治 「ア、秋」
・・・ 情婦ジェニーが市松模様のガラス窓にもたれて歌うところがちょっと、マチスの絵を見るような感じである。 乞食頭のピーチャムのする芝居にはどうも少ししっくりしないわざとらしさを感じる。 この映画の前半はいかにも昔のロンドンのような気・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・白と黒の市松模様の油障子を天井にして、色とりどりの菊の花の着物をきせられた活人形が、芳しくしめっぽい花の香りと、人形のにかわくささを場内に漲らせ、拍子木につれてギーとまわる廻り舞台のよこに、これも出方姿の口上がいて、拍子木の片方でそっちを指・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・ 叔父はいつもの通り頭に繃帯をし、杖を持って居、私は、十位までよく着て居た赤地に細い白線で市松が小さく小さく切ってある遠方から見ると真赤に外見えない様な着物を着て居たと覚えて居る。 田圃や畑の間を少し行くと思いがけず私共は両方が林に・・・ 宮本百合子 「追憶」
・・・ 浅草に行って その晩私は水色の様な麻の葉の銘仙に鶯茶の市松の羽織を着て匹田の赤い帯をしめて、髪はいつもの様に中央から二つに分けて耳んところでリボンをかけて居ました。紺色のカシミヤの手袋をはめて、白い大きな皮のえり巻・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫