・・・ この間帝国座の二宮君が来て、あなたの明治座の所感と云うものを読んだが、我々の神経は痲痺しているせいだか何だかあなたの口にするような非難はとうてい持ち出す余地がない、芝居になれたものの眼から見ると、筋なぞはどんなに無理だって、妙だって、・・・ 夏目漱石 「虚子君へ」
・・・十九世紀は国家的自覚の時代、所謂帝国主義の時代であった。各国家が何処までも他を従えることによって、自己自身を強大にすることが歴史的使命と考えた。そこには未だ国家の世界史的使命の自覚というものに至らなかった。国家に世界史的使命の自覚なく、単な・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・無偏・無党の帝室は、帝国の全面を照らして、そのいずれに厚からず、またいずれに薄からず、帝室より降臨すれば、政治の社会も学問の社会も、宗旨も道徳も技芸も農商も、一切万事、要用ならざるものなし。いやしくもこれらの事項について抜群の人物あれば、す・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・日本国民既に耶蘇教に入りたる者あり、なお未だ入らざる者ありといえども、その入ると入らざるとはただ宗教上の儀式にして、日本帝国決して不徳の国にあらず、耶蘇教国独り徳国にあらず、いやしくも数千年の国を成して人事の秩序を明らかにし、以て東海に独立・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・ で、文学物を見るようになったのは、語学校へ入って、右のような一種の帝国主義に浮かされて、語学を研究しているうちに自らその必要が起って来たので。というのは、当時の語学校はロシアの中学校同様の課目で、物理、化学、数学などの普通学を露語で教・・・ 二葉亭四迷 「予が半生の懺悔」
・・・「東京帝国大学校地質学教室行、」と書いた大きな札がつけられました。 そして、みんなは、「よいしょ。よいしょ。」と云いながら包みを、荷馬車へのせました。「さあ、よし、行こう。」 馬はプルルルと鼻を一つ鳴らして、青い青い向うの野・・・ 宮沢賢治 「気のいい火山弾」
・・・ 日本の大学、なかでも帝大といわれた帝国大学は、明治以来のそういう日本的な伝統のなかで、どこよりもふるい力に影響されていたところではなかったろうか。帝大とよばれた時代でも学力と学資があれば、もちろん、士族、平民という戸籍上の差別が入学者・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・中国の人々が、日本その他の国の帝国主義を排除して中華人民共和国となったばかりではありません。耐えがたい隷属の生活であればこそ、世界平和と民族の自立の要求は、アジア各民族の婦人たちの精神にはげしくもえたって、マライには七千人の婦人たちによる統・・・ 宮本百合子 「新しいアジアのために」
・・・その外帝国文学という方面には、堂々たる東京帝国大学の威を借って、血気壮な若武者達が、その数幾千万ということを知らず、入り代り立ち代り、壇に登って伎を演じて居るようだ。これが即ち文壇だ。この文壇の人々と予とは、あるいは全く接触点を闕いでいる、・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・それよりも我々が切実に感じたのは、外国の圧迫に対して日本帝国を守る情熱である。三国干渉は朧ろながらも子供心を刺戟した。露国の圧迫に対しては、おそらく楠公が足利氏に対して持ったであろうような、また父が徳川氏に対して持ったであろうような、そうい・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫