・・・私はこの姿を一目見ると、すぐにそれが四五日前に、ある会合の席上で紹介された本多子爵だと云う事に気がついた。が、近づきになって間もない私も、子爵の交際嫌いな性質は、以前からよく承知していたから、咄嗟の間、側へ行って挨拶したものかどうかを決しか・・・ 芥川竜之介 「開化の良人」
・・・と或る席上で故人自ら明言したのがその有力なる理由の一つであろう。が、文学には果して常に必ず遊戯的分子を伴うものであろう乎。およそ文学に限らず、如何なる職業でも学術でも既に興味を以て従う以上はソコに必ず快楽を伴う。この快楽を目して遊戯的分子と・・・ 内田魯庵 「二葉亭四迷」
一 二葉亭が存命だったら 二葉亭が存命だったら今頃ドウしているだろう? という問題が或る時二葉亭を知る同士が寄合った席上の話題となった。二葉亭はとても革命が勃発した頃まで露都に辛抱していなかったろうと思うが、仮に当時に居合わした・・・ 内田魯庵 「二葉亭追録」
・・・ 三七日の夜、親族会議が開かれた席上、四国の田舎から来た軽部の父が、お君の身の振り方につき、お君の籍は金助のところへ戻し、豹一も金助の養子にしてもろたらどんなもんじゃけんと、渋い顔して意見を述べ、お君の意嚮を訊くと、「私でっか。私は・・・ 織田作之助 「雨」
・・・その口答試問の席上で、志願の動機や家庭の情況を問われた時、「姉妹二人の暮しでしたが……。」 と言いながら、道子は不覚にも涙を落し、「あ、こんなに取り乱したりして、きっと口答試問ではねられてしまうわ。」 と心配したが、それから・・・ 織田作之助 「旅への誘い」
・・・いや、頼りないといえば、そんな事情をきかされるまでもなく、既にその見合いの席上で簡単にわかってしまったことなのだ。遅刻はするし、酔っぱらっては来るし、もうこんな人とは結婚なんかするものかと思ったが、そう思ったことがかえって気が楽になったのか・・・ 織田作之助 「天衣無縫」
・・・そして今また今度の会へもぜひ私を出席さして、その席上でいろいろな雑誌や新聞の関係者に紹介してくれて、生活の便宜を計ってやると言っていたのだ。 彼はほとんど隔日には私を訪ねてきてくれた。そしていつも「書けたかね?……書けない?……書けない・・・ 葛西善蔵 「遁走」
・・・むかしも今も席画というがある、席画に美術を求めることの無理で愚なのは今は誰しも認めている。席上鋳金に美術を求める、そんな分らない校長ではないと思っていたが、校長には校長の考えもあろうし、鋳金はたとい蝋型にせよ純粋美術とは云い難いが、また校長・・・ 幸田露伴 「鵞鳥」
・・・作品を読んだ事は無かったが、詩人の加納君が、或る会合の席上でかなりの情熱を以て君の作品をほめて、自分にも一読をすすめた事がありました。自分も、そんなら一度読んでみようと思いながら、今日までその機会が無く、そのままになっていました。先日、君の・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・一年すぎて、私の生活が、またもや、そろそろ困って、二、三の人にめいわくかけて、昨夜、地平と或る会合の席上、思いがけなく顔を合せ、お互い少し弱って、不自然であった。私は、バット一本、ビイル一滴のめぬからだになってしまって、淋しいどころの話でな・・・ 太宰治 「喝采」
出典:青空文庫