・・・詩とそれらとの関係は、日々の帳尻そうして詩人は、けっして牧師が説教の材料を集め、淫売婦がある種の男を探すがごとくに、何らかの成心をもっていてはいけない。 ~~~~~~~~~~~~~~~~~ 粗雑ないい方ながら、以上で私のいわん・・・ 石川啄木 「弓町より」
・・・ 兵卒は、初年兵の時、財布に持っている金額と、金銭出納簿の帳尻とが合っているかどうか、寝台の前に立たせられて、班の上等兵から調べられた経験を持っていた。金額と帳尻とが合っていないと、胸ぐらを掴まれ、ゆすぶられ、油を搾られた。誰れかゞ金を・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・政府で歳入の帳尻を合わせるために無茶苦茶にこの材木の使用を宣伝し奨励して棺桶などにまでこの良材を使わせたせいだといううわさもある。これはゴシップではあろうがとかくあすの事はかまわぬがちの現代為政者のしそうなことと思われておかしさに涙がこぼれ・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・すると女房が内証で里から金を持って来て帳尻を合わせる。それは夫が借財というものを毛虫のようにきらうからである。そういう事は所詮夫に知れずにはいない。庄兵衛は五節句だと言っては、里方から物をもらい、子供の七五三の祝いだと言っては、里方から子供・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
出典:青空文庫