・・・「御側役平田喜太夫殿の総領、多門と申すものでございました。」「その試合に数馬は負けたのじゃな?」「さようでございまする。多門は小手を一本に面を二本とりました。数馬は一本もとらずにしまいました。つまり三本勝負の上には見苦しい負けか・・・ 芥川竜之介 「三右衛門の罪」
・・・男三郎君というシッカリした弟があり、おゆうさんという妹もあり兄弟挙って文学に趣味を持つという人達だったから、その星野君が女学雑誌から離れて、一つ吾々の手で遣ろうではないかという相談を持ち出して、それに平田禿木君が主なる相談対手になり、北村君・・・ 島崎藤村 「北村透谷の短き一生」
・・・のであるが、ちかごろ甚だ頭の悪い、無感覚の者が、しきりに何やら古くさい事を言って騒ぎ立て、とんでもない結論を投げてよこしたりするので、その頭の古くて悪い 彼は私と小学校時代の同級生であったところの平田だという。「忘れたか」と言って、・・・ 太宰治 「親友交歓」
・・・これについては現に理化学研究所平田理学士によって若干の実験的研究が進行しているが、これもやはり広義の拡散的漸進的現象に伴なう、不連続的あるいは局発現象であって、従来有りふれの単純な拡散の理論だけでは、間に合わない筋のものであろうと思われる。・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・に関する統計などには、純粋な物質的の問題たとえばコロイド粒子の密度の場合に応用さるる公式を、そのまま使用しても立派に当てはまることが実証的に明らかになっている。平田理学士は、先年、某停車場の切符売り場の窓口に立ち寄る人の数に関する統計的調査・・・ 寺田寅彦 「物質群として見た動物群」
・・・「平田さんが今おいでなさッたから、お梅どんをじきに知らせて上げたんだよ」「そう。ありがとう。気休めだともッたら、西宮さんは実があるよ」「早く奥へおいでな」と、小万は懐紙で鉄瓶の下を煽いでいる。 吉里は燭台煌々たる上の間を眩し・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・、平田小六という「囚われた大地」という長篇小説をかいた元隆章閣の人などもはいっているし、婦人作家では私のほかにいね子[自注16]、松田さん[自注17]なども居ります。藤島まきという作家も出ました。文学におけるリアリズムの問題が、はじめ妙な傾・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
偶然のことから、私は「囚われた大地」がまだ発表されず、あるいはその原稿も小部分しか書かれていなかったと思われる時分、平田小六氏と知り合う機会を得た。そのころ平田さんは、日本にはまだ農民の生活を如実に書いた文学がすくないとい・・・ 宮本百合子 「作家への課題」
・・・又平田氏のように「文学の一般のレベルがもっと高くならなければならぬのだ。だからいきなり農民に判ったりするものか、それは小説の罪ではなくて、うんといいものは判らなくていいのだ」という見解が力をこめて語られたりもしている。われわれの今日の文学が・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・という論文のほか、平田次三郎「島木健作論」、北鬼助「平林たい子論」、中川隆一「丹羽文雄論」などがのりました。三つの論文はけっしてながいものではありません。また、堂々たる大評論でもないけれど、この三つの論文を『新日本文学』がのせることのできた・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
出典:青空文庫