・・・ただへいへいと申上げますと、どうだね、近頃出来たばかり、年号も今年のだよ、そういうのは昔だって見た事はあるまい、また見ようたって見せられないのだから、ゆっくり御覧、正直な年寄だというから内証で拝ませるのだよ。米や茶をさしておやり、と莞爾つい・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・だいいち、この事件の起ったとき、すなわち年号、それから、場所、それについても何も語っていなかったではありませんか。「ロシヤの医科大学の女学生が、或晩の事、何の学科やらの、」というような頗る不親切な記述があったばかりで、他はどの頁をひっくり返・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・ それだから年号と年数と干支とを併記して或る特定の年を確実不動に指定するという手堅い方法にはやはりそれだけの長所があるのである。為替や手形にデュープリケートの写しを添えるよりもいっそう手堅いやり方なのである。 年の干支と同様に日の干・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ステインドグラスの説明には年号や使徒の名などがのべつに出て来たが、別に興味を動かされなかった。塔の屋根へ登って見おろすと、寺の前の広場の花壇がきれいな模様になっている事がよくわかった。しかし寺院はやっぱり下から見るものだと思う。 ダヴィ・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・よって吾が党の士、相ともに謀りて、私にかの共立学校の制にならい、一小区の学舎を設け、これを創立の年号に取りてかりに慶応義塾と名づく。 ことし四月某日、土木、功を竣め、新たに舎の規律勧戒を立てり。こいねがわくは吾が党の士、千里笈を担うてこ・・・ 福沢諭吉 「慶応義塾の記」
・・・ 中国は中華人民共和国になって、旧い年号というものを廃止しました。日本にも年号を廃止してもよいのではないかという説が出て来ています。これは、当然そうあっていいことだと思います。なぜならば、こんにち世界の人民は、ヨーロッパでも、アジアでも・・・ 宮本百合子 「国際婦人デーへのメッセージ」
・・・「婦人公論の新年号みた? あるわよ、いろんなのが……」などという会話をとりかわすのは、一体どんな婦人及彼女の彼氏たちでありましょうか? 朝六時に、霜でカンカンに凍った道を赤い鼻緒の中歯下駄で踏みながら、正月になっても去年のショー・・・ 宮本百合子 「ゴルフ・パンツははいていまい」
・・・四六版、三百十二頁に、十行ならびの大きな活字で書名、著者、年号、冊数が掲載されてある。 これは、明治八年いよいよ書籍館が独立して旧大学内大成殿に仮館を定め、九年、毎日「午前第九時ヨリ午後第十時ニ至ルマデ内外人ノ覧閲ヲ許シ覧閲料ヲ収メス」・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・の分析、又『文化集団』新年号の最も重要な記事の一つ、ローゼンタールの「生活及び文学における典型的性格」研究などは、細かい部分についてはある註解がいると思われるところもあるが、以上の問題にも連関して一読の価値があると思われた。『文化集団』・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
『文芸春秋』の新年号に、作家ばかりの座談会という記事がのせられている。河豚礼讚、文芸雑誌の今昔などというところから、次第に様々の話題へ展開しているこの記事は、特に最後の部分、二・二六と大震災当時の心境についてそれぞれの出席者・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
出典:青空文庫