・・・が、筆のついでに、座中の各自が、好、悪、その季節、花の名、声、人、鳥、虫などを書きしるして、揃った処で、一……何某……好なものは、美人。「遠慮は要らないよ。」 悪むものは毛虫、と高らかに読上げよう、という事になる。 箇条の中に、・・・ 泉鏡花 「第二菎蒻本」
・・・ 膚の白さも雪なれば、瞳も露の涼しい中にも、拳って座中の明星と称えられた村井紫玉が、「まあ……前刻の、あの、小さな児は?」 公園の茶店に、一人静に憩いながら、緋塩瀬の煙管筒の結目を解掛けつつ、偶と思った。…… 髷も女優巻でな・・・ 泉鏡花 「伯爵の釵」
・・・ 十四 これへ何と、前触のあった百万遍を持込みましたろうではありませんか、座中の紳士貴婦人方、都育ちのお方にはお覚えはないのでありまするが、三太やあい、迷イ児の迷イ児の三太やあいと、鉦を叩いて山の裾を廻る声だの、・・・ 泉鏡花 「湯女の魂」
・・・例えば芸妓など言う賤しき女輩が衣裳を着飾り、酔客の座辺に狎れて歌舞周旋する其中に、漫語放言、憚る所なきは、活溌なるが如く無邪気なるが如く、又事実に於て無邪気無辜なる者もあらんなれども、之を目して座中の婬婦と言わざるを得ず。芸妓の事は固より人・・・ 福沢諭吉 「新女大学」
・・・その狼藉はなお可なり、酒席の一興、かえって面白しとして恕すべしといえども、座中ややもすれば三々五々の群を成して、その談、花街柳巷の事に及ぶが如きは聞くに堪えず。そもそもその花柳の談を喋々喃々するは、何を談じ何を笑い、何を問い何を答うるや。別・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
出典:青空文庫