・・・近くの島だったので病人を入れるバラックの建つのがこちらからよく見えた。いつもなにかを燃している、その火が夜は気味悪く物凄かった。海で泳ぐものは一人もない。波の間に枕などが浮いていると恐ろしいもののような気がした。その島には井戸が一つしかなか・・・ 梶井基次郎 「海 断片」
・・・こんど畑に家が建つのですのよ。薔薇を、な、これだけ植えて育てていたのですけんど、家が建つので可哀そうに、抜いて捨てなけれやならねえのよ。もったいないから、ここのお庭に、ちょっと植えさせて下さいましい。植えてから、六年になりますのよ。ほら、こ・・・ 太宰治 「善蔵を思う」
・・・宅のすぐ向う側に風呂屋が建つことになって、昨日から取毀しが始まった。この出来事によって今年の夏の暑さの記憶は相当に濃厚なものになるであろうと思われる。 四 験潮旅行 明治三十七年の夏休みに陸中釜石附近の港湾の潮・・・ 寺田寅彦 「夏」
・・・丁度焼跡の荒地に建つ仮小屋の間を彷徨うような、明治の都市の一隅において、われわれがただ僅か、壮麗なる過去の面影に接し得るのは、この霊廟、この廃址ばかりではないか。 過去を重んぜよ。過去は常に未来を生む神秘の泉である。迷える現在の道を照す・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・ 小学校の費用は、はじめ、これを建つるとき、その半を官よりたすけ、半は市中の富豪より出だして、家を建て書籍を買い、残金は人に貸して利足を取り、永く学校の資となす。また、区内の戸毎に命じて、半年に金一歩を出ださしめ、貸金の利足に合して永続・・・ 福沢諭吉 「京都学校の記」
・・・華族が一人死ぬると長屋の十軒も建つほどの地面を塞げて、甚だけしからん、といって独り議論したッて始まらないや。ドレ一寝入しようか。………………アア淋しい淋しい。この頃は忌日が来ようが盂蘭盆が来ようが誰一人来る者もない。最も此処へ来てから足かけ・・・ 正岡子規 「墓」
・・・ 一四九・三パーセント 固定託児所 一〇〇八 一五九七 五八・〇パーセント 児童健康保護医員 六三・一パーセント この頃盛んに建つСССРの新住宅は多くの場合その中に・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・ そして、一緒に建つ姙婦健康相談所で、プロレタリア婦人の避姙の相談にものり、産院で子を生ませてもらっても、とうてい育てられないほど困った時には、附属の乳児院の方で六ヵ月乃至一年間預り、または院外保育児として、里子に出し、その費用も同院で・・・ 宮本百合子 「「市の無料産院」と「身の上相談」」
・・・今年のうちにもう二百戸ばかり建つことになってはいますが……」 階下は明るいゆったりした二室に台所。二階は小ぶりな部屋が二つ。こちらにはヨーロッパ風の寝台や椅子。書もの卓子などがあるが、下は、韃靼風によく磨いた床に色彩の濃い敷物と沢山のク・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
・・・ソヴェト同盟ではどしどし新しい労働者住宅が建つ、家賃が年々下る。自分の区にも、便利な住宅がいる。 それらの仕事を実行するのはソヴェトです。勤労婦人が、熱心にソヴェト選挙に参加し、投票もすれば、自分が選挙されたとき全責任をもって働くわけも・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の婦人と選挙」
出典:青空文庫