・・・ここへ茶店を建てるときにも、ずいぶん烈しい競争があったと聞いている。東京からの遊覧の客も、必ずここで一休みする。バスから降りて、まず崖の上から立小便して、それから、ああいいながめだ、と讃嘆の声を放つのである。 遊覧客たちの、そんな嘆声に・・・ 太宰治 「富士に就いて」
・・・映画の使命は単に大衆のスター崇拝の礼拝堂を建てるのみではないであろう。 はなはだ無意味でつまらないようである意味で非常に進歩しているのはアメリカのナンセンス映画やミュージカル・コメディの類である。ある人の説のごとく、芸術は在るところのも・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・液体力学を持ち出すまでもなく、こういう所へ家を建てるのは考えものである。しかしあるいは家のほうが先に建っていたので切り通しのほうがあとにできたかもしれない。そうだとすると電車の会社はこの家の持ち主に明白な損害を直接に与えたものだという事が科・・・ 寺田寅彦 「写生紀行」
・・・西欧科学を輸入した現代日本人は西洋と日本とで自然の環境に著しい相違のあることを無視し、従って伝来の相地の学を蔑視して建てるべからざる所に人工を建設した。そうして克服し得たつもりの自然の厳父のふるった鞭のひと打ちで、その建設物が実にいくじもな・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
一 今の住宅を建てる時に、どうか天井にねずみの入り込まないようにしてもらいたいという事を特に請負人に頼んでおいた。充分に注意しますとは言っていたが、なお工事中にも時々忘れないようにこの点を主張しておいた・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・それほど大仕掛の手数を厭う位なら、ついでに文芸院を建てる手数をも厭った方が経済であると考える。国家を代表するかの観を装う文芸委員なるものは、その性質上直接社会に向って、以上のような大勢力を振舞かねる団体だからである。 もし文芸院がより多・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・下らない家を建てるより文学者になれといいました。当人が文学者になれといったのはよほどの自信があったからでしょう。私はそれで建築家になる事をふっつり思い止まりました。私の考は金をとって、門前市をなして、頑固で、変人で、というのでしたけれども、・・・ 夏目漱石 「無題」
・・・石を建てるのはいやだがやむなくば沢庵石のようなごろごろした白い石を三つか四つかころがして置くばかりにしてもらおう。もしそれも出来なければ円形か四角か六角かにきっぱり切った石を建ててもらいたい。彼自然石という薄ッぺらな石に字の沢山彫ってあるの・・・ 正岡子規 「墓」
・・・てぐすも飼えないところにどうして工場なんか建てるんだ。飼えるともさ。現におれをはじめたくさんのものが、それでくらしを立てているんだ。」 ブドリはかすれた声で、やっと、「そうですか。」と言いました。「それにこの森は、すっかりおれが・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・取れもしないところにどうして工場なんか建てるんだ。取れるともさ。現におれはじめ沢山のものがそれでくらしを立てているんじゃないか。」 ネネムはかすれた声でやっと「そうですか。おじさん。」と云いました。「それにこの森はすっかりおれの・・・ 宮沢賢治 「ペンネンネンネンネン・ネネムの伝記」
出典:青空文庫