・・・ 弱者とは友人を恐れぬ代りに、敵を恐れるものである。この故に又至る処に架空の敵ばかり発見するものである。 S・Mの智慧 これは友人S・Mのわたしに話した言葉である。 弁証法の功績。――所詮何ものも莫迦げていると云・・・ 芥川竜之介 「侏儒の言葉」
・・・ レーニンの弁証法に、ブハーリンの史的唯物論に、もとより真理のある事を否まない。且つ、科学的基礎のあることをば信ずる。たゞこれを漫然と繙くものに、いずこにか、ナロードニーキの運動を嗤う権利があろう? 現代は、科学的という言葉に、あま・・・ 小川未明 「純情主義を想う」
・・・ フォイエルバッハはヘーゲルからエンゲルスの橋渡しとして、ヘーゲルの弁証法を唯物弁証法に媒介した意味で科学的社会主義の先駆ともいえる。 彼によれば「人間相互の共同」が真理の普遍性の最初の原理である。認識において自己以外の他の物体の存・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・その意味においては、弁証法的神学者がいうように、聖書でさえも啓示を語った書ではあるが、啓示そのものではないのである。 かように書物と知性から離れて端的に神の啓示につくまでの人間超克の道程に読書があるのである。読書は無意義ではない。啓示を・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・唯物論的弁証法に拠らざれば、どのような些々たる現象をも、把握できない。十年来の信条であった。肉体化さえ、されて居る。十年後もまた、変ることなし。けれども私は、労働者と農民とが私たちに向けて示す憎悪と反撥とを、いささかも和げてもらいたくないの・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・アンチテエゼの成立が、その成立の見透しが、甚だややこしく、あいまいになって来て、自己のかねて隠し持ったる唯物論的弁証法の切れ味も、なんだか心細くなり、狼狽して右往左往している一群の知識人のためにも、この全体主義哲学は、その世界観、その認識論・・・ 太宰治 「多頭蛇哲学」
人生はチャンスだ。結婚もチャンスだ。恋愛もチャンスだ。と、したり顔して教える苦労人が多いけれども、私は、そうでないと思う。私は別段、れいの唯物論的弁証法に媚びるわけではないが、少くとも恋愛は、チャンスでないと思う。私はそれ・・・ 太宰治 「チャンス」
・・・歴史は繰り返すなんて、どだい、あれは、君、弁証法を知らんよ、なんてね、僕もこれは一つ、社会党へでもはいって出世をしようかな。つまらない。飲もう! 飲んで鬱を晴らそう。汝、無力なる国民学校教師よ。二人、小さい食卓をはさんであぐらを・・・ 太宰治 「春の枯葉」
・・・また、かの、弁証法をも、学びたるなるべし。われ、かのレクチュアをなす所存なけれど、いまの若き世代、いまだにリアル、リアル、と穴てんてんの青き表現の羅紗かぶせたる机にしがみつき、すがりつき、にかわづけされて在る状態の、『不正。』に気づくべき筈・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・たとえばエイゼンシュテインはその「映画の弁証法」において、プドーフキンらのモンタージュ論の基礎的概念を批評し、これに代わるべき弁証法的モンタージュ論を提出し、のみならずこれに基づいた作品をこしらえようとした。しかし彼のこれらの試みはまた一派・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
出典:青空文庫