・・・ それをはいはい引受けると、今度は三重吉が袂から粟を一袋出した。これを毎朝食わせなくっちゃいけません。もし餌をかえてやらなければ、餌壺を出して殻だけ吹いておやんなさい。そうしないと文鳥が実のある粟を一々拾い出さなくっちゃなりませんから。・・・ 夏目漱石 「文鳥」
・・・本屋へ話したが引き受けるという者はなし、友達から醵金するといっても今石塔がやっと出来たばかりでまた金出してくれともいえず、来年の年忌にでもなったらまた工夫もつくであろうという事であった。何だか心細い話ではあるがしかし遺稿を一年早く出したから・・・ 正岡子規 「墓」
・・・十瓶だって二十瓶だって引き受けると町の薬屋でも云ってくるからな。」「そうだ。」ファゼーロが云いました。「ここの下へたいた煙を、となりの酒をつくったむろに通して、あすこでハムをつくるといいな。」「それはサートもそう云ってるよ。とに・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・それが旨く行かず、又故郷からも金が来なかったら、宿屋の勘定だけを私が引き受ける。私にはそれ以上の約束は出来ない。それで好いかと、私は云った。 F君は私の詞を聞いて、少し勝手が違うように、予期に反したように感じたらしかったが、とにかく同意・・・ 森鴎外 「二人の友」
・・・「連れて来んもの、誰が引受けるぞ。」「そりゃお前、お前とこが株内やで俺が連れて行くのはあたり前の話や。」「お前株内や株内や云うけど、苗字が一緒やで株内やと定ってまいが、それに自分勝手に私とこへ連れて来て、たちまちわしとこが迷惑す・・・ 横光利一 「南北」
・・・が、また自分に安次を引き受ける気持のある以上、敵の罵倒に反抗し得るだけの力は、自然出て来るであろうと思われた。九 秋三の母はひと笊豆をむき終えた。そこへ姉のお霜は黙って一人這入って来た。「姉やんか。丁度ええわ。あのな、生・・・ 横光利一 「南北」
・・・オペラや能と違って人形浄瑠璃においては音楽は純粋に音楽家が、動作は純粋に人形使いが引き受ける。そこで動作の心使いに煩わされることのない音楽家の音楽的表現が、直ちに動作する人形の言葉になる。人形は自ら口をきかないがゆえにかえって自ら言うよりも・・・ 和辻哲郎 「文楽座の人形芝居」
出典:青空文庫