・・・私はテツさんに妻を引き合せてやった。私がわざわざ妻を連れて来たのは妻も亦テツさんと同じように貧しい育ちの女であるから、テツさんを慰めるにしても、私などよりなにかきっと適切な態度や言葉をもってするにちがいないと独断したからであった。しかし、私・・・ 太宰治 「列車」
・・・古くからいる女が僕等のテーブルにお民をつれてきて、何分宜しくと言って引合せたので、僕等は始めて其名を知ったわけである。始て見た時年は二十四五に見えたが、然しその後いくつだときいた時、お民は別に隠そうともせず二十六だと答えた。他の女給仕人のよ・・・ 永井荷風 「申訳」
・・・ いっしょに連れて行った二人を老師に引き合せて、巡錫の打ち合せなどを済ました後、しばらく雑談をしているうちに、老師から縁切寺の由来やら、時頼夫人の開基の事やら、どうしてそんな尼寺へ住むようになった訳やら、いろいろ聞いた。帰る時には玄関ま・・・ 夏目漱石 「初秋の一日」
・・・ 六時がうってしばらくたったころ、ジョバンニは拾った活字をいっぱいに入れた平たい箱をもういちど手にもった紙きれと引き合せてから、さっきの卓子の人へ持って来ました。その人は黙ってそれを受け取って微かにうなずきました。 ジョバンニはおじ・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・前便に申上候井上の嬢さんに引き合せくれんと、谷田の奥さんが申され候ゆゑ、今日上野へまゐり、只今帰りてこの手紙をしたため候。私と谷田の奥さんとにて先に参りをり候処へ、富子さん母上と御一しよに来られ、車を降りて立ち居られ候高島田の姿を、初て見候・・・ 森鴎外 「独身」
出典:青空文庫