・・・ その金瓶楼主が、きっと多勢引率して芝居にくるだろうと、お絹は思っていたので、電話がかかってくると、飛んでいって受話機を取った。「芳沢さんや」お絹がかけ手の声をきくと、そう言って笑いながら、いつにない浮き立った調子で話していた。お芳・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・各小学校の校長先生たちや、郡長さん始め、県の役人なども沢山いるところで、私たちは非常に面目をほどこしてから、受持の先生に引率されて帰ってきたが、それから林と私はますます仲良しになった。 あるとき林の家へいって遊んでると、林が大きな写真帳・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・大丈夫だ。大丈夫。引率の教師が飛石をつくるのもおかしいがまたえらい。やっぱりおかしい。ありがたい。うまくいった。ひとりが渡る。ぐらぐらする。あぶなく渡る、二人がわたる。もう一つはどれにするかな もう四人だけ渡っている。飛石の上に両あ・・・ 宮沢賢治 「台川」
・・・その勾配を、小旗握った宿屋の番頭に引率された善男善女の大群が、連綿として登り、下りしていて、左右の土産物屋は浅草の仲見世のようである。葡萄を売っている。林檎を売っている。赤や黄色で刷った絵草紙、タオル、木の盆、乾蕎麦や数珠を売っている。門を・・・ 宮本百合子 「上林からの手紙」
・・・まだ健在であった人見絹枝さんが女子選手を引率して行く途中モスクワへよられました。大使館でその歓迎と幸先祝いの晩餐がひらかれ、私も座に連ったのですが、そのとき人見さんは一同を眺めわたしながら高々とした声で「このお嬢さん達をつれて歩くのは容易じ・・・ 宮本百合子 「現実の問題」
・・・ 事変以来、様々の勤労の場面に小学校の卒業生の求められている勢は殆どすさまじいばかりで、三月末の日曜日、東京の各駅には地方から先生に引率された「産業豆戦士」が、行李だの鞄だのを手に手に提げて、無言の裡に駭きの目を瞠りながら続々と到着して・・・ 宮本百合子 「国民学校への過程」
・・・日本女の患者の室へ、大学医科三年生が男女六人医師に引率されて入って来た。 白衣の下に女子青年共産党の服をつけた赤い顔の娘が臨床記録を書くための質問を始めた。病症の経過。生年月日 職業 過去の健康状態 父母と弟妹の健康状態――祖父さん・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・赤軍が逆襲して、市ソヴェトに赤旗が翻ったかと思うと、チェッコの侵入軍が、派手な制服の士官に引率されて襲撃して来る。 赤旗をかくせ! 党の政治部は書類を焼きすてて地下へもぐった。工場の門前にバリケードが築かれる。やって来るならやって来・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
出典:青空文庫