・・・けれどもあなたは強がりなくせに変に淋しい方ね。……戸部 畜生……とも子 悪口になったら、許してちょうだい。でも私は心から皆さんにお礼しますわ。私みたいながらがらした物のわからない人間を、皆さんでかわいがってくださったんですもの。お・・・ 有島武郎 「ドモ又の死」
・・・と強がりたさに目をみはる。 女房はそれかあらぬか、内々危んだ胸へひしと、色変るまで聞咎め、「ええ、亡念の火が憑いたって、」「おっと、……」 とばかり三之助は口をおさえ、「黙ろう、黙ろう、」と傍を向いた、片頬に笑を含みなが・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・所詮はあの人の、幼い強がりにちがいない。あの人の信仰とやらでもって、万事成らざるは無しという気概のほどを、人々に見せたかったのに違いないのです。それにしても、縄の鞭を振りあげて、無力な商人を追い廻したりなんかして、なんて、まあ、けちな強がり・・・ 太宰治 「駈込み訴え」
・・・そうして、以上の、われにも似合わぬ、幼き強がりの言葉の数々、すべてこれ、わが肉体滅亡の予告であること信じてよろしい。二度とふたたびお逢いできぬだろう心もとなさ、謂わば私のゴルゴタ、訳けば髑髏、ああ、この荒涼の心象風景への明確なる認定が言わせ・・・ 太宰治 「二十世紀旗手」
・・・ この人の絵はわりに好きなほうであったが、近年少しわざとらしい強がりを見せられて困っている。ことしのにはまたこの人の持ち味の自然さが復活しかけて来たようである。しかしあの大きいほうの風景のどす黒い色彩はこの人の固有のものでないと思う。小さな・・・ 寺田寅彦 「昭和二年の二科会と美術院」
・・・いろいろ慾が出、綺麗なのが欲しかったり、強がりのが憎らしかったりするうちに、小鳥の性格も感じられるような気がして来た。 人間にも、顔の異るように性格の差異がある。小鳥も羽色の異う以上それの無いことはないであろう。あるものと仮定して、私の・・・ 宮本百合子 「小鳥」
・・・のつよさ、「強がり」、「偏狭性」、「馬車馬的な骨おしみ知らず」、「田舎者の律気」などに還元している。そして「かれが積極的になる時、飛躍する時、かれの性格の唯一の欠点である偏狭性が跳梁した」というに至って、誤謬はデマゴギー的性質にまで発展して・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
出典:青空文庫