・・・しかし、当事者はそう思わず、主観的な歓喜と平安とを主張して終ったのであった。「或る女」の第二章はその部分だけを取扱って十分一つの長篇を描き得るものである。この部分の価値を若し作者が十分理解して少くとも前篇を構成していたら、「或る女」・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・ そして、そういう現代の女性の比較的表現されていない気持は、後輩や娘たちが当事者として、異性との間に友情と恋愛の感情の区別をはっきり自覚しないでいろいろ混迷しているとおり、やはり事態に対して何となし判断の混乱におかれている場合がすくなく・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・ 見た眼がいいものを――という気持の出版当事者も悪いが、又装幀を引受けた美術家なるものもあまりに盲目的である。芸術的良心を痲痺させてしまって出版業者に動員されて、てんから恥ない所がありはすまいか、出版当事者美術家ともに大いに良心を覚醒さ・・・ 宮本百合子 「業者と美術家の覚醒を促す」
・・・曲った金品を取らせようとする人間とそれを取るか、取らぬかの判断は、当事者の廉潔心によるしかない立場におかれる人間との関係というものは、社会的などういう相互利害の関係から生じるのであろうか。最も根底的なこれらの人間関係の腐敗の原因は何処にある・・・ 宮本百合子 「暮の街」
・・・或る生活の中に生じる波瀾かっとうは非常に苛烈であって、異常であるが、それに対する理解が驚くべき見とおしによって貫かれていて、当事者がそれを悲劇以上の把握で捉えて生きぬく場合、それは文学に描かれて悲劇の程度に止っているであろうか。リヤ王なんか・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ところが、不思議なことに、その作品のモデルだとみずから名乗って作品のその醜さが当事者たちの名誉を毀損する、法律に訴えると、ジャーナリズムに大きな声をあげた男女の作家があらわれた。 他人にわからない文壇生棲間のもつれでもあってのことだろう・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・双方が総ての意味で真面目である場合とすれば、 一、現今のように、何か異状な出来事の如く感ぜず冷静に、深い愛を以って、愛人達の生活のよき発展を助けること、相手がよいわるい、適不適と云うことは当事者達の生活経験によらなければ云えないことと心・・・ 宮本百合子 「子に愛人の出来た場合」
・・・転向文学という独特な通称がおこったほど、当時は過去を描いた作品がプロレタリア作家によって発表されたのであったが、その一貫した特徴は、文化運動を通じての活動によって法律の制裁をも受けた当事者たちの箇人的な意味での自己曝露であり、良心の苦悩の告・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・或る場合、この心理的動機は当事者である娘たちに自覚されていないことが多いのである。 さっき触れた朝日新聞の諸家の見解の中で山脇高女の先生である竹田菊子氏が、男装のレビューガール等を慕うのは「この頃は昔と違って結婚年齢がおくれているか・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・親、戸主の権威が不幸の原因とさえなっていた結婚というものは、当事者である男女の互の意志によってとりきめられ、互の協力によって維持されるべきものとなろうとしている。憲法で、男女同等の基本的人権が認められるようになった。それに準じて変更される民・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
出典:青空文庫