・・・というものがどうにも不格好なものである。しかしどうしてこれが他の多くの動物よりもより多く「不格好」という形容詞に対する特権を享有することになるのか。 人間の使ういろいろな器具器械でも一目見てなんとなくいい格好をしたものはたいてい使ってぐ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・荒涼、陰惨、ディスマル、トロストロース、あらゆる有り合わせの形容詞の総ざらえをしても間に合わない光景である。いつもは美しく飾り立てた小売り店の表には、実に見すぼらしい明治時代の雨戸がしめてある。大商店のショウウィンドウにははげさびた鎧戸か、・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・というような雑多な動作の中から共通なものが抽象されて、そこに「切る」という動詞が出来、また同様にして「堅い」というような形容詞が生れる。これらの言葉の内容はもはや箇々の物件を離れて、それぞれ一つの「学」の種子になっている。 こういう事が・・・ 寺田寅彦 「言語と道具」
・・・dismal とか weird とか何かしらそんな言葉で、もっと適切な形容詞がありそうで想い出せない。 総持寺の厖大な建築や記念碑を見廻した時に私を襲った感じが、どういうものかこのケンプェルの挿絵の感じと非常によく似ていた。 摺鉢形・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 千年の間に二十回とか三十回といえばやはり稀有という形容詞を使っても不穏当とは云えないし、目前にのみ気を使っている政治家や実業家達が忘れていても不思議はないかもしれない。 こうした極端な程度から少し下がった中等程度の颱風となると、そ・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・贋物には大正とか改良とかいう形容詞をつけて置けばいいんだろう。」と唖々子は常に杯を放なさない。「ああいう人たちのはく下駄は大抵籐表の駒下駄か知ら。後がへって郡部の赤土が附着いていないといけまいね。鼻緒のゆるんでいるとこへ、十文位の大きな・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・それについては少し学究めきますが、日本とか現代とかいう特別な形容詞に束縛されない一般の開化から出立してその性質を調べる必要があると考えます。御互いに開化と云う言葉を使っておって、日に何遍も繰返しているけれども、はたして開化とはどんなものだと・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・びび数千言と云うとむやみに能弁にしゃべるように聞こえてわるいが、時間から云えば、こんな形容詞でも使わなくってはならなくなるくらい論じていた。その知識の詳密精細なる事はまた格別なもので、向って左のどの辺に誰がいて、その反対の側に誰の席があるな・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
・・・が等しく道徳に関係があって、そうしてこの二種の文学が、冒頭に述べた明治以前の道徳と明治以後の道徳とをちゃんと反射している事が明暸になりましたから、我々はこの二つの舶来語を文学から切り離して、直に道徳の形容詞として用い、浪漫的道徳及び自然主義・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・least poor とは物匂い形容詞だ。或る公園で男女二人連があれは支那人だいや日本人だと争っていたのを聞た事がある。二三日前さる所へ呼ばれてシルクハットにフロックで出かけたら、向うから来た二人の職工みたような者が a handsome ・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
出典:青空文庫