・・・ 住職の知り合いで、ある小銀行の役員をつとめている田島というものも、また、吉弥に熱くなっていることは、住職から聴いて知っていたが、この方に対しては別に心配するほどのこともないと見たから、僕も眼中に置かなかった。吉弥を通じて僕に会いたいと・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・交潤社の客で一代に通っていた中島某はA中の父兄会の役員だったのだ。寺田は素行不良の理由で免職になったことをまるで前科者になってしまったように考え、もはや社会に容れられぬ人間になった気持で、就職口を探しに行こうとはせず、頭から蒲団をかぶって毎・・・ 織田作之助 「競馬」
・・・「KやAにゃ、すげえ奴が居るぞ。」 武松は、この鉱山ではすごい方だった。その彼が、たまげた話し方をした。「役員なんぞ、糞喰えだ。いけすかねえ野郎は、かまうこたない、出刃庖丁で頸をちょんぎったるんだ。それで、そしてその切れたあとへ・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・佐吉さんの店先に集って来る若者達も、それぞれお祭の役員であって、様々の計画を、はしゃいで相談し合って居ました。踊り屋台、手古舞、山車、花火、三島の花火は昔から伝統のあるものらしく、水花火というものもあって、それは大社の池の真中で仕掛花火を行・・・ 太宰治 「老ハイデルベルヒ」
・・・社から高島貞喜がくるという通知を受けとったこと、その演説会と座談会をやるため、印刷工組合と友愛会支部とで出来ている熊本労働組合連合会の役員たちが宣伝をうけもつこと、高島の接待は第五高等学校の連中がやること等であった。しかし同じ新人会熊本支部・・・ 徳永直 「白い道」
・・・ 我が日本国にても、政府の官職はただ在職中の等級のみにて、このほかに位階勲章の制を立てず、尊卑はただ政府中、官吏相互の等級にして、かつて政府外に通用せざるものなれば、私の会社中に役員の等級あるが如くにして、他に影響すること少なからんとい・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・この公務を取扱う人を名づけて政府の官員または会社の役員といい、この官員の理不尽に威張るものを名づけて暴政府といい、役員の理不尽に威張るものを暴会社という。即ち民権の退縮して専制の流行することなり。 今前条に示したる家内に返りてこれを論ぜ・・・ 福沢諭吉 「教育の事」
・・・そこで県工業会の役員たちや、工芸学校の先生は、それについていろいろしらべました。そしてとうとう、すっかり昔のようないいものが出来るようになって、東京大博覧会へも出ましたし、二等賞も取りました。ここまでは、大てい誰でも知っています。新聞にも毎・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
・・・ソヴェト同盟が搾り専門の社長、重役を工場から追っぱらったと同時に、監督とか世話役とか天くだりの役員を廃絶し、みんなが順ぐり互の仕事を監督し合い、技術を向上するよう励まし合ってゆくプロレタリアらしいやりかたが、この代議員というものに現われてい・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・―― 村の在郷軍人で、消防の小頭をし、同時に青年団の役員をつとめている仙二が心を悩ましていたのは、お園のことや、近く迫っている役員改選期のことではなかった。沢や婆さんのことであった。 何故、この白髪蓬々の、膝からじかに大きな瞼に袋の・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
出典:青空文庫