・・・ K部落の土着で、「ふん、自家用か、お前も役場の衆みたいなことをいう! これ以上、どうして芋が食える。朝食うて、昼食うて晩食うて……。お前に食わさんのが慈悲じゃと思え」という兄について彼は部落を歩きまわり、ことごとに部落の荒廃を目撃する・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・「国に貸したものがあるさかい何の彼の世話やいてもろうとる、あの役場の馬場はんと一緒になって、幾分なりと入れさせる様にすれば、それから裂いで廻してやろ云うてなはるんや。「そいならあの新田の山岸はんの事ったっしゃろ。 あそこの旦はん・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
さあ、いよいよメーデーが近づいたぞ! ソヴェト同盟のあらゆる工場・役場・学校の文化宣伝部委員たちは大忙しだ。 ブルジョア国の革命的プロレタリアートは、同じ頃、盛んにメーデー闘争の準備のために白色テロルと争いながら活・・・ 宮本百合子 「勝利したプロレタリアのメーデー」
・・・ 仕事びらきんときあ、町役場のお役人さんが、藻埴まで行って来なすつあね。 大丈夫よ、オイ、小僧。 乗ってもいいが、帰りの椅子で戻って来ねえと、ぶっぱたくぞ」 六の小さい体は、椅子の刳込みにポックリと工合よく納まる。 嬉し・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ 町のステーションから、軒の低い町筋をすぎて、両方が田畑になってからの道は小半里、つきあたりに、有るかなしの、あまり見だてもない村役場は建って居る。和洋折衷の三階建で、役場と云うよりは「三階」と云う方が分りやすい。 この「三階」につ・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・長野の或るところでは、役場の責任者が、責任感から行方不明となり、自殺したかもしれないと云われている。 このような大量な記載もれの生じた原因は、何だったのだろうか。役所では、隣組や町会に国民調査をまかした結果として、この次は各自申告をさせ・・・ 宮本百合子 「春遠し」
・・・兼てこの村が附近の開発の中心地となって村役場も出来、大神宮も建てられ、そのあたり一帯は開成山とも名づけられた。 この開成山の村役場というのが、そんな東北の開墾村の役場にふさわしくないような三階建てで、屋根はコバ葺きながらなだらかな反りを・・・ 宮本百合子 「村の三代」
・・・ 午後から良人は福井市に出、大宮までの切符と持って行くべき食糧の鑵詰類を買い入れて来た。役場から、入京に必要だと云う身分証明書を貰った。そして、四日の午後四時五十七分、総ての荷物を郷里に遺し、ただ食糧だけを二人で背負う振り分けの荷に作っ・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・拾いし者は速やかに返すべし――町役場に持参するとも、直ちにイモーヴィルのフォルチュネ、ウールフレークに渡すとも勝手なり。ご褒美として二十フランの事。』 人々は卓にかえった。太鼓の鈍い響きと令丁のかすかな声とが遠くでするのを人々は今一度聞・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・それから年寄衆がおいでになって、役場へ連れてゆかれますまで、わたくしは剃刀をそばに置いて、目を半分あいたまま死んでいる弟の顔を見詰めていたのでございます。」 少しうつ向きかげんになって庄兵衛の顔を下から見上げて話していた喜助は、こう言っ・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
出典:青空文庫