・・・今日になってみると、開墾しうべきところはたいてい開墾されて、立派に生産に役立つ土地になっていますが、開墾当初のことを考えると、一時代時代が隔たっているような感じがします。ここから見渡すことのできる一面の土地は、丈け高い熊笹と雑草の生い茂った・・・ 有島武郎 「小作人への告別」
・・・ これから教育は、家庭に於ける子供というよりは、国家の子供として、国家に役立つ人間を造らなければならない。国家が栄えれば自然国民も栄えるからです。国家が強く富まなければ、国民は、決して幸福になれよう筈がない。お母さんは、その心掛けで、子・・・ 小川未明 「お母さんは僕達の太陽」
・・・と、信吉は得意になって、「僕の拾った勾玉や、土器が、学問のうえに役立つというんだよ。」「まあ……。」「そして、みっちゃん、その博士が、お礼にきれいなお人形を送ってくださる約束をしたんだよ。みっちゃん、楽しみにして、待っておいで。・・・ 小川未明 「銀河の下の町」
・・・かくの如く多様の生活をなしつゝある児童等に、概念的な、いかなる読物が真に人間としてなすべきことを教え将来に役立つというのでありましょうか。知れば、必ず行うという本能を持つ児童等に、架空的なお伽噺や、道徳談が、どれだけの役割を果し得ると考えら・・・ 小川未明 「新童話論」
・・・徒らに、特権階級に媚びる文学は、小説といわず、少年少女の教育に役立つ読物といわず、またこの弊に陥っています。そのことが、いかに、純情、無垢な彼等の明朗性を損うことか分らないのみならず、真の勇気を阻止し、権力の前に卑屈な人間たらしめることにな・・・ 小川未明 「童話を書く時の心」
・・・客観的事実の軽重にしたがって、零細な金を義捐してもその役立つ反応はわからない。一方は子どものいたいけな指が守れるのが直ちに見える。この場合のような選択について、有名なシルレルとカントとの論争が起こるのだ。道徳的義務の意識からでなく、活々とし・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・今私がここにそれをそのまま縮写するのみでは役立つこと少ないであろう。それはくわしき伝記について見らるるにしくはない。ここには同じ宗教的日本主義者として今日彼に共鳴するところの多い私が、私の目をもって見た日蓮の本質的性格と、特殊的相貌の把握と・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・しかし、どれもこれも役立つようなものは一つもこしらえない。みんな子供の玩具程度のものばかりである。子供の時分には、絵で見て橇をこしらえて雪の降らない道の上をがた/\引っぱりまわって、通行人の邪魔をした。今、彼は、翼が六枚ついている飛行機をこ・・・ 黒島伝治 「自画像」
・・・人に手紙を出すのも、旅行するのも、聖書を読むのも、女と遊ぶのも、井原と冗談を言い合うのも、みんな君の仕事に直接、役立つようにじたばた工夫しているのだから、かなわない。そんなに「傑作」が書きたいのかね。傑作を書いて、ちょっと聖人づらをしたいの・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・少し持っているお米は、これはいずれどこかで途中下車になった時、宿屋でごはんとかえてもらうのに役立つかも知れませんが、さしあたって、きょうこれからの食べるものに窮してしまいました。 父と母は、炒り豆をかじり水を飲んでも、一日や二日は我慢で・・・ 太宰治 「たずねびと」
出典:青空文庫