人物。数枝 二十九歳睦子 数枝の娘、六歳。伝兵衛 数枝の父、五十四歳。あさ 伝兵衛の後妻、数枝の継母、四十五歳。金谷清蔵 村の人、三十四歳。その他 栄一 島田哲郎・・・ 太宰治 「冬の花火」
・・・下宿の主婦は、荒物屋には若い好い後妻が来たと喜んで話した。自分も新しい主婦の晴れやかな顔を見て、何となくこの店に一縷の明るい光がさすように思うた。 今年の夏、荒物屋には幼い可愛い顔が一つ増した。心よく晴れた夕方など、亭主はこの幼時を大事・・・ 寺田寅彦 「やもり物語」
・・・ 我輩は亭主に自分の身体はいつ移れるのかと聞いたら今日でもよいというから、午飯の後妻君と共に新宅へ引き移る事にした。 神さんと二人で午飯を食っていると亭主が代言人の所から帰って来て神さんに、御前一つ手紙をかいて差配の所へ郵便でやれ書・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
・・・ただに主僕の間のみならず、後妻をめとりて先妻を想うの例もあり。親愛尽きはてたる夫婦の間も、遠ざかればまた相想うの情を起すにいたるものならん。されば今、店子と家主と、区長と小前と、その間にさまざまの苦情あれども、その苦情は決して真の情実を写し・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・ つい先頃、後妻にいじめられ、水ものめずに死んだ石屋の爺さんが、七十六かで、沢や婆さんと略同年輩の最後の一人であった。その爺さえ、彼女の前身を確に知ってはいなかった。まして、村の若い者、仙二位の男達だって、赤児で始めて沢や婆さんの顔を見、怯・・・ 宮本百合子 「秋の反射」
・・・あびて居てさ、にくらしいにもほうずがあるじゃあないかねい、娘にそんな苦しい思いをさしておいてうれ高が少いと打ったり、けったりするんだと、もとはそれでもそうとうに暮して居たんだがきりょうのぞみでもらった後妻が我ままでさんざん金をまいたあげくに・・・ 宮本百合子 「同じ娘でも」
・・・と、細君を失くした医者の後妻の縁談までを、一旦ことわりつつ「あんなに急にことわることはなかったのかもしれない。」とさえ思う。「しかし、もし結婚するのならそんな知らない人よりも……」気心も分っている公荘と、「前のことなんかすっかり水に流して」・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
出典:青空文庫