・・・ロシアは、それを後援している。「支那人朝鮮人」共産軍がブラゴウェチェンスクから増援隊として出動した。そういう噂が、各中隊にもっぱらとなって来た。「――相手は、支那兵だけではないんである。皆は、決して、油断をしてはいけない! いいか!・・・ 黒島伝治 「チチハルまで」
・・・いのに、とひとりで笑いたくなって、蒲団を引きかぶり、眼尻から涙が、つとあふれて落ちて、おや、あくびの涙かしら、泣いているのかしら、と流石にあわて、とにかく、この子が女優になるというし、これは、ひとつ、後援会でも組織せずばなるまい。 ・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・大正十二年関東大震災以前から既に地震学に興味をもっていたが、大震災の惨害を体験した動機から、地震に対する特殊の研究機関の必要を痛感し、時の総長古在由直氏に進言し、その後援の下に懸命の努力をもって奔走した結果、遂に東京帝国大学附属地震研究所の・・・ 寺田寅彦 「工学博士末広恭二君」
・・・藤村は国際文化協会という役所から後援され、ペンクラブの大会へ出かけて居ります。昔、フランスへ茶の実をもって行ったように今度のおみやげも日本の植物の実と柿本人麿の和歌です。横光利一はパリにいて、一九二九年以来の花の散ったパリ[自注10]を見て・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・この間来なすった時、明治神宮の前できび団子でもこさえて売ろうかって云いなさるから、そりゃあ面白い、うんとおやりなさい、後援してあげましょう、と云いましたが、まさか、実際にそれをするのはいやなんですね。考案は、大きなのや小さなのや種々雑多なの・・・ 宮本百合子 「一九二三年冬」
・・・或る箇人、例えば、父、良人、長兄などと云う一人の力に縋って、その人の庇護、その人の助力、その後援によって、一族円満に、金持もなければ貧しい者もない風で暮すのを理想とするよりは、もう一歩、人生に対して積極であると思います。先ず自己を、次に自己・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・その自動車会社がしっかりしているので目前の月給は悪くないのであったが、小枝子は或る時不図そのことに気がつくと不安になって、新劇の或る女優の後援会で知りあった多喜子のところへ洋裁を習いに来はじめたのであった。今では、ひとのものも縫えるところま・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・を唱え、某方面の後援によって満州へ出かけられることに誇りを感じているらしい姿も、林氏の言葉につれて読者の心に思い浮んで来るのである。 文学または思想における日本的なものの追求が近頃これらの作家達によって熱心にされている。万葉、王朝時代の・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・の著作権を侵害せる事実明白なるにより、劇作家協会の後援を得て社長大谷氏を訴う。国民文芸会有志の熱心なる調停に動かされ、和解す。その際松竹より提出せし金円は著作権法改正運動に使用する条件を附して劇作家協会に寄附する。 一九二六年。劇作家協・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・友人の群を心持ちの上の後援として人と争ったりなんぞはしない。自分はただ独りだ。ただ独りでいいのだ。 しかしながらこれは自分の全部であったろうか。自分は自分の内の愛を殺戮するために、忍びやかに苦痛を感じてはいなかったろうか。自分は自分の嘲・・・ 和辻哲郎 「自己の肯定と否定と」
出典:青空文庫