・・・ただ科学の野辺に漂浪して名もない一輪の花を摘んではそのつつましい花冠の中に秘められた喜びを味わうために生涯を徒費しても惜しいと思わないような「遊蕩児」のために、この取止めもない想い出話が一つの道しるべともなれば仕合せである。・・・ 寺田寅彦 「科学に志す人へ」
・・・ しかしわたしはこれがために幾多の日子と紙料とを徒費したことを悔いていない。わたしは平生草稿をつくるに必ず石州製の生紙を選んで用いている。西洋紙にあらざるわたしの草稿は、反古となせば家の塵を掃うはたきを作るによろしく、揉み柔げて厠に持ち・・・ 永井荷風 「十日の菊」
・・・―― こうして、今日一部の文学者は、彼らの壮年の精力を保守反動と客観的には批評される方向に徒費しているのですが、それというのも、今日日本の民主主義の性質を、しんから会得していないからではないでしょうか。 ブルジョア民主主義の達成が眼・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
出典:青空文庫