・・・そこで、すぐに御徒目付へ知らせる。御徒目付からは、御徒組頭久下善兵衛、御徒目付土田半右衛門、菰田仁右衛門、などが駈けつける。――殿中では忽ち、蜂の巣を破ったような騒動が出来した。 それから、一同集って、手負いを抱きあげて見ると、顔も体も・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・三枚橋のかけられていた御徒町の忍川の如き溝渠である。 そのころ人の家をたずね歩むに当って、番地よりも橋の名をたよりにして行く方が、その処を知るにはかえって迷うおそれがなかった。しかしこれら市中の溝渠は大かた大正十二年癸亥の震災前後、街衢・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・ 毎日午後に、下谷御徒町にいた師匠むらくの家に行き、何やかやと、その家の用事を手つだい、おそくも四時過には寄席の楽屋に行っていなければならない。その刻限になると、前座の坊主が楽屋に来るが否や、どこどんどんと楽屋の太鼓を叩きはじめる。表口・・・ 永井荷風 「雪の日」
出典:青空文庫