・・・編輯者 さようなら、御機嫌好う。 芥川竜之介 「奇遇」
・・・「それでも白と云うのだよ。」「じゃ白のおじさんと云いましょう。白のおじさん。ぜひまた近い内に一度来て下さい。」「じゃナポ公、さよなら!」「御機嫌好う、白のおじさん! さようなら、さようなら!」四 その後の白は・・・ 芥川竜之介 「白」
・・・またお前たちが元気よく私に朝の挨拶をしてから、母上の写真の前に駈けて行って、「ママちゃん御機嫌よう」と快活に叫ぶ瞬間ほど、私の心の底までぐざと刮り通す瞬間はない。私はその時、ぎょっとして無劫の世界を眼前に見る。 世の中の人は私の述懐を馬・・・ 有島武郎 「小さき者へ」
・・・いつもの通り「御機嫌よう」をして、本の包みを枕もとにおいて、帽子のぴかぴか光る庇をつまんで寝たことだけはちゃんと覚えているのですが、それがどこへか見えなくなったのです。 眼をさましたら本の包はちゃんと枕もとにありましたけれども、帽子はあ・・・ 有島武郎 「僕の帽子のお話」
・・・お覚えのめでたさ、その御機嫌の段いうまでもない――帰途に、身が領分に口寄の巫女があると聞く、いまだ試みた事がない。それへ案内をせよ。太守は人麿の声を聞こうとしたのである。 しのびで、裏町の軒へ寄ると、破屋を包む霧寒く、松韻颯々として・・・ 泉鏡花 「神鷺之巻」
・・・おまけにお前様、あの薄暗い尼寺を若いもの同士にあけ渡して、御機嫌よう、か何かで、ふいとどこかへ遁げた日になって見りゃ、破戒無慙というのだね。乱暴じゃあないか。千ちゃん、尼さんだって七十八十まで行い澄していながら、お前さんのために、ありゃまあ・・・ 泉鏡花 「清心庵」
・・・ 二三日顔を見せませんから案じられます、逢いとうはございます、辛抱がし切れませんでちょっと沢井様のお勝手へ伺いますと、何貴方、お米は無事で、奥様も珍しいほど御機嫌のいい処、竹屋の婆さんが来たが、米や、こちらへお通し、とおっしゃると、あの・・・ 泉鏡花 「政談十二社」
・・・――「へい、旦那御機嫌よう。」と三人ばかり座敷へ出ると、……「遅いじゃねえか。」とその御機嫌が大不機嫌。「先刻お勝手へ参りましただが、お澄さんが、まだ旦那方、御飯中で、失礼だと言わっしゃるものだで。」――「撃つぞ。出ろ。ここから一発はな・・・ 泉鏡花 「鷭狩」
・・・御隠居様、御機嫌よう、と乗合わせた近まわりの人らしいのが、お婆さんも、娘も、どこかの商人らしいのも、三人まで、小さな荷ですが一つ一つ手伝いましてね、なかなかどうして礼拝されます。が、この人たちの前、ちと三島で下りるのが擽ったかったらしい。い・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・何よりも御機嫌での。」「御僧様こそ。」「いや、もう年を取りました。知人は皆二代、また孫の代じゃ。……しかし立派に御成人じゃな。」「お恥かしゅう存じます。」「久しぶりじゃ、ちと庫裡へ。――渋茶なと進ぜよう。」「かさねまして・・・ 泉鏡花 「夫人利生記」
出典:青空文庫