・・・一族のものは市太夫の復命を聞いて、一条の活路を得たような気がした。そのうち日が立って、天祐和尚の帰京のときが次第に近づいて来た。和尚は殿様に逢って話をするたびに、阿部権兵衛が助命のことを折りがあったら言上しようと思ったが、どうしても折りがな・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ 役人の復命に依って、酒井家から沙汰があった。三右衛門が重手を負いながら、癖者を中の口まで追って出たのは、「平生の心得方宜に附、格式相当の葬儀可取行」と云うのである。三右衛門の創を受けた現場にあった、癖者の刀は、役人の手で元の持主五瀬某・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・そこでお豊さんの返事をもって復命することだけは、一時見合わせようと、長倉のご新造が受け合ったが、どうもお豊さんが意を翻そうとは信ぜられないので、「どうぞ無理にお勧めにならぬように」と言い残して起って出た。 長倉のご新造が川添の門を出て、・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫