・・・最近にある友人の趣味に少しかぶれて植物界への注意が復活しかけたのと、もう一つには自分の目下の研究の領域が偶然に植物生理学の領域と接触し始めたために、この好機会を利用して少しばかりこの方面の観察をしようと思ったので、まず第一の参考として牧野氏・・・ 寺田寅彦 「沓掛より」
・・・人間いくら年をとっても時には子供時代の喜びを復活させる希望を捨てなくてもいいのである。 M夫人が到着したのでそろそろ出掛ける。 一体の地面よりは一段高い芝生の上に小さな猪口の底を抜いて俯伏せにしたような円錐形の台を置いて、その上にあ・・・ 寺田寅彦 「ゴルフ随行記」
・・・死んでもはや復活した。墓は空虚だ。いつまでも墓に縋りついてはならぬ。「もし爾の右眼爾を礙かさば抽出してこれをすてよ」。愛別、離苦、打克たねばならぬ。我らは苦痛を忍んで解脱せねばならぬ。繰り返して曰う、諸君、我々は生きねばならぬ、生きるために・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
「猫」の下巻を活字に植えて見たら頁が足りないから、もう少し書き足してくれと云う。書肆は「猫」を以て伸縮自在と心得て居るらしい。いくら猫でも一旦甕へ落ちて往生した以上は、そう安っぽく復活が出来る訳のものではない。頁が足らんから・・・ 夏目漱石 「『吾輩は猫である』下篇自序」
・・・相手の女が同じ人であるだけに、過ぎ去った日のあらゆる感情が復活して来たのだろうか。今の疑懼の心持は昔マドレエヌの家の小さい客間で、女主人の出て来るのを待ち受けた時と同じではないか。人間の記憶は全く意志の掣肘を受けずに古い閲歴を堅固に保存して・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・正面から軍国主義の復活や侵略的な民族主義をたきつけることは出来ないから、民主主義者が提唱する人民的な民族主義に便乗して「日本を再建するために」云々と、民族自立の問題・主権在民の問題も――即ちポツダム宣言と新憲法の実質を左からぐるりと右へひと・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・原始キリスト教では、キリスト復活の第一の姿をマリアが見たとされて、愛の深さの基準で神への近さがいわれたのだが後年、暗黒時代の教会はやはり女を地獄と一緒に罪業の深いものとして、女に求める女らしさに生活の受動性が強調された。 十九世紀のヨー・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・一旦人に知られてから、役の方が地方勤めになったり何かして、死んだもののようにせられて、頭が禿げ掛かった後に東京へ戻されて、文学者として復活している。手数の掛かった履歴である。 木村が文芸欄を読んで不公平を感ずるのが、自利的であって、毀ら・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・東洋画の伝統は千年の古きより一年前の新しきに至るまでさまざまに利用せられ復活せられて、ひたすら看衆の眼を奪おうと努めている。ある者は大和絵と文人画と御舟と龍子との混合酒を造ってその味の新しきを誇り、ある者はインドとシナの混合酒に大和絵の香味・・・ 和辻哲郎 「院展日本画所感」
・・・彼はそれに力を得てイエスの復活を説き立てる。哲学者は急に熱心になって霊魂不滅の信仰が迷妄に過ぎないこと、この迷妄を打破しなければ人間の幸福は得られないことを説いて彼を反駁する。彼は全能の造物主を恐れないのかときく。哲学者はこの世界が元子の離・・・ 和辻哲郎 「『偶像再興』序言」
出典:青空文庫