・・・のみならず道楽の念はとにかく道楽の途はまだ開けていなかったから、こうしたい、ああしたいと云う方角も程度も至って微弱なもので、たまに足を伸したり手を休めたりして、満足していたくらいのものだろうと思われる。今日は死ぬか生きるかの問題は大分超越し・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・しからば維新後の道徳が維新前とどういう風に違って来たかと云うと、かのピタリと理想通りに定った完全の道徳というものを人に強うる勢力がだんだん微弱になるばかりでなく、昔渇仰した理想その物がいつの間にか偶像視せられて、その代り事実と云うものを土台・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・この種の理想は無論幾多の作物中に経となり緯となりて織り込まれているには相違ないが、これが現代の理想だと云うには、遥に微弱すぎると思います。それでは荘厳だろうか。荘厳が現代の理想ならばいささか頼母しい気持もするが、実際はかえって反対である。現・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ 然りといえども人心の微弱、或は我輩の言に従うこと能わざるの事情もあるべし。これまた止むを得ざる次第なれども、兎に角に明治年間にこの文字を記して二氏を論評したる者ありといえば、また以て後世士人の風を維持することもあらんか、拙筆また徒労に・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・天明以後絵画にわかに勃興して美術史に一紀元を与えたることにつきて、蕪村もまた多少の原因をなさざりしにはあらざるも、その影響はきわめて微弱にして、彼が俳句界における関係と同日に論ずべきにあらず。 天明は狂歌盛んに行われ、黄表紙ようやく勢い・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・私は、恭々しく謹んで、微弱な、唯一の燈火を持運びます。〔一九二一年四月〕 宮本百合子 「偶感一語」
・・・たとい少数であり、微弱であっても、その健全性によって評価されなければならない事象は、正当に評価して、波動をひろげつたえて行く意志が、今日のヒューマニズムにおいて求められている。 文学の面で、近頃亀井勝一郎氏、小林秀雄氏共々、文学評価の科・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・婦人帽の動くにつれ、微弱な、瞬間的な動揺が鋪道の人波の裡に起った。 私は、その或る時は派手な紅色の、或る時は黒い鍔広の婦人帽の下に、細面の、下品ではないが※四、四円。一月で百二十円! ふうむ」 三月の或る晩、私は従妹や弟と矢張り・・・ 宮本百合子 「粗末な花束」
・・・ ――「欠陥の基本的なものは組織的活動の微弱なこと、連絡がプロレタリア作家乃至革命的作家団体間に強く行われないで、むしろ各個人間に行われて来たことである。国際局の機関雑誌『外国文学時報』も亦大きな欠点をもっている。これは直に改革して世界・・・ 宮本百合子 「ニッポン三週間」
出典:青空文庫