・・・と云うよりはむしろその敷物自身が、百十の微粒分子になって、動き出したとも云うべきくらいであった。 仔蜘蛛はすぐに円頂閣の窓をくぐって、日の光と風との通っている、庚申薔薇の枝へなだれ出した。彼等のある一団は炎暑を重く支えている薔薇の葉の上・・・ 芥川竜之介 「女」
・・・ また、粘土などを水に混じた微粒のサスペンションが容器の中で水平な縞状の層を作る不思議な現象がある。普通の理論からすれば、ダルトン方則で、単に普通の指数曲線的垂直分布を示すはずのが、事実はこれに反して画然たる数個の段階に分かれるのである・・・ 寺田寅彦 「自然界の縞模様」
・・・灰の塊が降るとばかり思っていた自分にはこの事実が珍しく不思議に思われた。灰の微粒と心核の石粒とでは周囲の気流に対する落下速度が著しくちがうから、この両者は空中でたびたび衝突するであろうが、それが再び反発しないでそのまま膠着してこんな形に生長・・・ 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・その外に煙突の煙からは煤に混じて金属の微粒も出る、火山の噴出物もまた色々の塵を供給する。その上に地球以外から飛来する隕石の粉のようなものが、いわゆる宇宙塵として浮游している。 このような塵に太陽から来る光波が当れば、波のエネルギーの一部・・・ 寺田寅彦 「塵埃と光」
・・・最も複雑な分子と細胞内の微粒との距離ははなはだ近そうに見える。しかしその距離は全く吾人現在の知識で想像し得られないものである。山の両側から掘って行くトンネルがだんだん互いに近づいて最後のつるはしの一撃でぽこりと相通ずるような日がいつ来るか全・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・昔ニュートンは光を高速度にて放出さるる物質の微粒子と考えた。後にはエーテルと称する仮想物質の弾性波と考えられ、マクスウェルに到ってはこれをエーテル中の電磁的歪みの波状伝播と考えられるに到った。その後アインスタイン一派は光の波状伝播を疑った。・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
出典:青空文庫