・・・今夜こそは徹底的に父と自分との間の黒白をつけるまでは夜明かしでもしよう。父はややしばらく自分の怒りをもて余しているらしかったが、やがて強いてそれを押さえながら、ぴちりぴちりと句点でも切るように話し始めた。「いいか。よく聞いていて考えてみ・・・ 有島武郎 「親子」
・・・なぜならばあの問題はもっと徹底的に講究されなければならないものであって、他人の言説のあら探しで終わるべきはずのものではないからである。 本当をいうと、私は諸家の批評に対していちいち答弁をすべきであるかもしれない。しかし私は議論というもの・・・ 有島武郎 「想片」
・・・けれども北海道の冬となると徹底的に冬だ。凡ての生命が不可能の少し手前まで追いこめられる程の冬だ。それが春に変ると一時に春になる。草のなかった処に青い草が生える。花のなかった処にあらん限りの花が開く。人は言葉通りに新たに甦って来る。あの変化、・・・ 有島武郎 「北海道に就いての印象」
・・・井侯薨去当時、故侯の欧化政策は滑稽の思出草となったが、あらゆる旧物を破壊して根底から新文明を創造しようとした井侯の徹底的政策の小気味よさは事毎に八方へ気兼して※咀逡巡する今の政治家には見られない。例えば先祖から持ち伝えた山を拓いて新らしい果・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・ 今度の戦争の事に対しても、徹底的に最後まで戦うということは、独逸が勝っても、或は敗けても、世界の人心の上にはっきりした覚醒を齎すけれども、それがこの儘済んだら、世界の人心に対して何物をも附与しないであろう。・・・ 小川未明 「愛に就ての問題」
・・・行為の決定の徹底的な正しさを追究するときには、カントのように純に意志そのものの形式によらざるを得なくなるのは当然であって、この意味で私は新カント派のリップスや、コーヘンの「純粋意志の倫理学」が、現象学派のハルトマンや、シェーラーの「実質的価・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・劣勢の場合には尻をまくって逃げだすが、優勢だと、図に乗って徹底的な惨虐性を発揮してくる。そういう話が、たった八人の彼等を、おびやかすのだった。本隊を遠く離れると、離れる程、恐怖は強くなって、彼等は、もう、たゞ彼等だけだと感じるようになった。・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・ 彼が、大佐の娘に熱中しているのを探り出して、云いふらしたのも吉原だった。「不軍紀な、何て不軍紀な! 徹底的に犠牲にあげなきゃいかん!」 そして彼は、イワンに橇を止めさせると、すぐとびおりて、中隊長と云い合っている吉原の方へ雪に長靴・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・しかし、革命的プロレタリアートに対しては、徹底的に弾圧の手をゆるめやしないのだ。 なお、そればかりではない。第三期に這入って帝国主義戦争が間近かに切迫して来るに従って、ブルジョアジーは入営する兵士たちに対してばかりでなく、全国民を、青年・・・ 黒島伝治 「入営する青年たちは何をなすべきか」
・・・或る場合には、悲惨をも、残酷をも、人類の進歩のために肯定するプロレタリアートが徹底的にどこまでも反対するのは、帝国主義××である。即ち、××的、××的戦争に反対するのである。 二 ブルジョアジーの戦争反対文学は、多・・・ 黒島伝治 「反戦文学論」
出典:青空文庫