・・・家庭の主婦の心労や骨折や或は無智が、職工さんのお弁当の量は多くて質の足りない組合わせを結果して来てもいるだろうし、代用食と云えばうどんで子供は食慾もなくしている始末にもなっていよう。何をたべたか、何がたべたいかという結果として出たところで調・・・ 宮本百合子 「「うどんくい」」
・・・習慣のちがう、言葉のちがうパリでの共同家族の生活で、若い主婦イエニーがどんなにこまごました心労を経験したかということは推察される。 翌年――一八四四年五月一日――イエニーは女の子を産んだ。娘は小イエニーとなづけられた。パリのありふれたか・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・稲子さんは自分の二人の子供達を食わせ、おばあさんを養わねばならない上に、獄中の良人のために心労をし、しかも当時の仕事の性質上、金は極端にとれなかった。獄中の鶴次郎さんに差入れる夜具布団を自分で家から背負って持って行った。そういう窮乏状態であ・・・ 宮本百合子 「窪川稲子のこと」
・・・そして私はもうこういう種類の心労は大変疲れたから、早く自分の単純で書生らしい生活に戻りたいと願っているところなの。 この前の手紙で申し上たような有様、更に現実はあれより複雑故、一番広い視野で先を見通すものが、こういう中では疲れ、そしてあ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・三十一日に電報をいただき、一日都合よく行かなかった間はいろいろ心配――単純にそうでもないが、心労いたしました。二日には、あなたがそれまで二度お目にかかっていた時よりずっと馴れて、顔つきにも体つきにもあなたらしい流動性が出ていて、大変うれしく・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・新聞そのものを実質的にクラブの機関紙としてゆくための闘いの時期、当然櫛田さんの心労ははなはだしかった。ちっとも金をもたない婦人民主クラブが、ともかくひとつの週刊紙を借金の上から送りだしつづけてゆくことは、楽なやりくりでありようなかった。また・・・ 宮本百合子 「その人の四年間」
・・・ かなり長い間の心労に安心が出て母はぐったりした様にして居ます。 彼女はその様子に一層気のたるんだのを感じながら、ストーブの石炭からポッカリ、ポッカリ暖い焔の立つ広い部屋の裸の卓子に向い合ってまじまじと座って居ました。 外の・・・ 宮本百合子 「二月七日」
・・・労働条件のわるさ――たえざる疲労と心労、生活不安と、からみあって来ているこの娯楽の知覚的な方向へのそらせかたは、よほど警戒されなければならない。働いて、くたびれた時間の全部は、じっと考えさせず、たえず音や色や動きでまぎらしてしまおうとする娯・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・あなたの悩みも、つまりは、どの男でも妻であるあなたの実家の商売、病身な母などについて快よく心労をわけあってくれるとは云えないと感じているところにあるのでしょう。 こういう悩みをもつ若い女はあなた一人だと思ったら大ちがいです。都会にだって・・・ 宮本百合子 「「我らの誌上相談」」
出典:青空文庫