・・・御前は朝寝坊だ、朝寝坊だからむやみに食うのだと判断されては誰も心服するものはない。枡を持ち出して、反物の尺を取ってやるから、さあ持って来いと号令を下したって誰も号令に応ずるものはありません。寒暖計を眺めて、どうもあの山の高さはよほどあるよと・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・にて、郷里に正当の妻を遺し、東京に来りて更らに第二の妻と結婚して、所謂一妻一妾は扨置き、二妻数妾の滅茶苦茶なれば、子供の厳父に於ける、唯その厳重なる命令に恐入り、何事に就ても唯々諾々するのみ、曾て之に心服する者なし。歳月の間に其子供等は小学・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・インガに対してだって、心服なぞはしていない。女の工場管理者に心服なんかするのは労働者の男の恥だ、そう思っているのであった。 夜、工場クラブで集会が終ったところだ。休憩室へみんながぞろぞろとあふれ出し、或る者は隅のテーブルで茶を飲みはじめ・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・ ○ニコライのいうことは皆心服した。 ○いよいよ体がわるくなったとき聖ルカに入院。私死ぬか活きるか教えてくれ、死ぬ。では何日もつであろう。はっきりは分らぬが十日。ではこうしては居られぬ、十日あれば相当の仕事が出来る。 早速か・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・父が患者に対して愛嬌をふりまくとか、患者を心服せしめるためにホラを吹くとか、そういう類の外交術をやっている場面はかつて見たことがないが、病気と聞いて即座に飛び出して行かない場合もかつてなかったと思う。田舎のことであるから、こういう生活はかな・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫