・・・そして、彼女は自分の弟のポオルの生きかたについてまじめな心痛を語っている。「彼は多くの人のような暮し方をしてはならないから。――即ち初めぶらぶらして、それから博奕を打つ人やココットの仲間に交ったりしてはならないから。彼とても男でなければなら・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・つづいて自身の病気にふれ、子供さんの病気に心痛顛倒する自身の心持に語り及んでそこへ私の名がひきあわされているので、自然読むと、私が「子供を愛したりするとヒューマニズムの線が下向する」と云っているとのことが書かれてある。それに反対の心持として・・・ 宮本百合子 「夜叉のなげき」
・・・そういう青年たちの親の深い愁と心痛とがあるのである。そして、山本有三氏の小説に心をひかれる読者層の大部分こそは、実にこういう苦痛をもった人々ではなかろうか。この社会的矛盾の間に、人間らしく生きようとするには、何をなさなければならないか。いか・・・ 宮本百合子 「山本有三氏の境地」
・・・父親である男として、妻を離婚したあと、母を失った子供たちの境遇について心痛しないものはない。より人間らしく生きる道としてひらかれた一つの門から、より多くの売春婦と浮浪児を生み出すことを、わたしたちの社会的良心は肯定しない。この現実のままでは・・・ 宮本百合子 「離婚について」
・・・それから弥一右衛門の追腹、家督相続人権兵衛の向陽院での振舞い、それがもとになっての死刑、弥五兵衛以下一族の立籠りという順序に、阿部家がだんだん否運に傾いて来たので、又七郎は親身のものにも劣らぬ心痛をした。 ある日又七郎が女房に言いつけて・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫