・・・かように貴娘が仰せられし、と私より申さむか、何がさて母君は疾に世に亡き御方なれば、出来ぬ相談と申すもの、とても出来ない相談の出来よう筈のなきことゆえ、いかなる鼻もこれには弱りて、しまいに泣寝入となるは必定、ナニ御心配なされまするな、」と説く・・・ 泉鏡花 「妖僧記」
・・・お玉ヶ池に住んでいた頃、或人が不斗尋ねると、都々逸端唄から甚句カッポレのチリカラカッポウ大陽気だったので、必定お客を呼んでの大酒宴の真最中と、暫らく戸外に佇立って躊躇していたが、どうもそうらしくもないので、やがて玄関に音なうと、ピッタリ三味・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・果せる哉、鴎外は必定私が自己吹聴のため、ことさらに他人の短と自家の長とを対比して書いたものと推断して、怫然としたものと見える。 その次の『柵草紙』を見ると、イヤ書いた、書いた、僅か数行に足らない逸話の一節に対して百行以上の大反駁を加えた・・・ 内田魯庵 「鴎外博士の追憶」
・・・はいり、退屈まぎれに、湯殿へやって来る浴客を掴まえては、世間話、その話の序でには、どこそこでよく効く灸をやっている、日蓮宗の施灸奉仕で、ありがたいことだ、げんにわたしもいま先……と、灸の話が出ることは必定……と、可哀想に長風呂でのぼせてしま・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・彼女も必定僕と気が着いたに違いない。お正さん僕は明日朝出発ますよ。」「まア如何して?」「若し彼女が大東館にでも宿泊っていたら、僕と白昼出会わすかも知れない、僕は見るのも嫌です。往来で会うかも知れません如斯な狭い所ですから。」「会・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
・・・「だってね母上のことだから又大きな声をして必定お怒鳴になるから、近処へ聞えても外聞が悪いし、それにね、貴所が思い切たことを被仰ると直ぐ私が恨まれますから。それでなくても私が気に喰わんから一所に居たくても為方なしに別居して嫌な下宿屋までし・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・それを見て私は最早必定そうだと決定て御隠居様に先ず申上げてみようかと思いましたが、一つ係蹄をかけて此方で験めした上と考がえましたから今日行って試たので御座いますよ」とお徳はにやり笑った。「どんな係蹄をかけたの?」とお清が心配そうに訊いた・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・御帰りになりますれば、日頃御重愛の品、御手ならしの品とて、しばらく御もてあそび無かった後ゆえ、直にも御心のそれへ行くは必定、其時其御秘蔵が見えぬとあっては、御方様の御申訳の無いはもとより、ひいては何の様なことが起ろうも知れませぬ。御方様のき・・・ 幸田露伴 「雪たたき」
・・・本一ばん、いや日本一ばんは即ち世界一ばんという事になりますが、一ばん大きな山椒魚を私の生きて在るうちに、ひとめ見たいものだという希望に胸を焼かれて、これまた老いの物好きと、かの貧書生などに笑われるのは必定と存じますが、神よ、私はただ、大きい・・・ 太宰治 「黄村先生言行録」
・・・然らずんば、人間の腹より出でたる犬豕を生ずること必定なり。斯る化物は街道に連れ出して見世物となすには至極面白かるべけれども、世の中のためには甚だ困りものなり。 福沢諭吉 「家庭習慣の教えを論ず」
出典:青空文庫