・・・ 女性としての生活の上からも、本当に生活に必須なことと、そうでないこととの区別をはっきり知った丈で、あの当時は、一日が五年の教育に価した。余りけばけばしい装飾の遠慮、無力を一種の愛らしさとしていた怯懦の消滅、自分の手と頭脳にだけ頼って、・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・しかし引きしめて控え目に、ただ核実のみを絞り出す事は、嘘を書かないための必須な条件であった。製作者自身は真実を書いているつもりでも、興奮に足をさらわれて手綱の取り方をゆるがせにすれば、書かれた物の内からは必ず虚偽が響き出る。大業にすることは・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
・・・すなわち自己の生命をより高くより深く築いて行くことが、創作の価値をより高からしめるためには必須の条件である。人は偉大な作品を創りたいという気をきわめて起こしやすい。しかし偉大な表現はただ偉大な内生あって初めて可能になるのである。何を創作した・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
出典:青空文庫