・・・また、武家の子を商人の家に貰うて養えば、おのずから町人根性となり、商家の子を文人の家に養えば、おのずから文に志す。幼少の時より手につけたる者なれば、血統に非ざるも自然に養父母の気象を承るは、あまねく人の知る所にして、家風の人心を変化すること・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・なると、漢文脈の熟語、形容詞をつかって、こんにちの読者にはふり仮名なしにはよめない麗句で朝日ののぼる姿を描き、あるいは、余情綿々たる和文調で草木の美を叙し、しかも根本を貫いている思想は、自然への逃避を志す東洋的態度の旧套を脱せず、人間と自然・・・ 宮本百合子 「自然描写における社会性について」
・・・その意味で、民主国では、この社会的な課題は、男女をこめて、明日のより条理そなわった社会建設に志す人々にとって、提出されている総括的な課題の一部分として扱われているのである。なぜなら、健康人の社会生活が安定であって、はじめて、病人の生活も保証・・・ 宮本百合子 「世界の寡婦」
・・・ 共産主義的作家も、同盟者的、同伴者的作家も等しくなさねばならぬことは「同盟の最も進んだ到達点に立って、運動に新しい発展を与える如き創作活動を志す」努力である。 同志蔵原は、「プロレタリア芸術運動の組織問題」の中で、繰返し繰返し組織・・・ 宮本百合子 「前進のために」
・・・ それは勿論、貴女が自分の志す道の先達であられるということもございましたろう。 けれども、それより直接に強く私の心を捕えたものは、御作を透して感じずにはおられない、独特の貴女でございました。その貴女は、ひどく私共のものなのです。然し・・・ 宮本百合子 「野上彌生子様へ」
・・・小市民階級の娘たちが、うちが面白くないので、飛び出して、例えば映画女優になりたいとか、ダンサーを志すとか、いうことは屡々あり、そこには客観的に見た当否は別とし、自身の才能についてのぼんやりした選択が認められる場合が多い。よほど質の低い、地方・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・文学を愛し、文学を志す人の気持というものは、おしながそうとする生活の波に対して盲目であり得ないというのが本質です。だからくりかえし云っているこの度の十九名のファシスト達の問題についても、形式的なブルジョア権力の道徳からいえば、法律が無罪とし・・・ 宮本百合子 「平和運動と文学者」
・・・もし、歴史文学を志す人々が、今日の歴史の根本の性格をいかに捕えるかという努力を放擲して、現象の姿の相似を過去の出来事の中に見出してだけ行ったとすれば、もう其は歴史文学とは云えず、単に過去を題材とした風俗小説になってしまうだろう。歴史文学の歴・・・ 宮本百合子 「歴史と文学」
・・・これは私の手紙としては、最長い手紙で、世間で不治の病と云うものが必ず不治だと思ってはならぬ、安心を得ようと志すものは、病のために屈してはならぬと云うことを、譬喩談のように書いたものであった。私は安国寺さんが語学のために甚だしく苦しんで、その・・・ 森鴎外 「二人の友」
出典:青空文庫