・・・そして、時に彼等の代弁となり、時に彼等の忠言者たらなければならぬものである。これを称して、私は、大衆作家と言い、或は民衆作家とも呼ぼうとします。 しかるに、今日は、『大衆に向くものを』という意図のもとに文芸が創作されつゝあります。 ・・・ 小川未明 「作家としての問題」
・・・現実の心得としては、おそらくさきに述べたような私の高等的忠言よりも、「読むべし、読むべし」と鞭撻すべきかもしれない。読みすぎることをおもんぱかるのは現代学生の勤勉性を少しく買いかぶっているかもしれない。 生と観察との独自性を失わない限り・・・ 倉田百三 「学生と読書」
・・・ わが国の地震学者や気象学者は従来かかる国難を予想してしばしば当局と国民とに警告を与えたはずであるが、当局は目前の政務に追われ、国民はその日の生活にせわしくて、そうした忠言に耳をかす暇がなかったように見える。誠に遺憾なことである。 ・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・ こんな事になるのも、国政の要路に当る者に博大なる理想もなく、信念もなく人情に立つことを知らず、人格を敬することを知らず、謙虚忠言を聞く度量もなく、月日とともに進む向上の心もなく、傲慢にしてはなはだしく時勢に後れたるの致すところである。・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
・・・けれど、多勢の人や、お友達のいる処で、正しい事でも、自分の耳に痛い事を云われると、正直に素直に其の忠言に従う事は出来なく成るものでございますね。 我儘な友子さんは、芳子さんがじっと独りで堪えているのをよい事にして、自分が学校を廃めるまで・・・ 宮本百合子 「いとこ同志」
・・・ 認識の範囲の狭さ、個性の独自性の乏しさ、妥協的で easy-going であると云うような忠言は、批評の一種の共有性であろう。 或る人は、そんな事はあるものか、男の人は負け惜みが強いからそんな事を云い度いのだと、云うかもしれない。・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・そして大衆の忠言や注意を利用しろ。文学的団体の間に行われる文学理論上の討論も、工場でやってくれ! こういう決議をした。『文学新聞』にいろいろな工場連名でこの決議が載せられたとき、「鎌と鎚」工場はその先頭にたっていた。 五箇年計画は、・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・誠意ある批評とか完成のための忠言とかいうものは、こういう本質のずれた議論の上になりたつものではない。 革命的小市民というのは、社会の現状に一応の批判をもって、ある程度の変革に参加するけれども、労働者階級の勝利と社会主義、共産主義への見と・・・ 宮本百合子 「河上氏に答える」
・・・けれど、いよいよこの期待すべき娘が、若い医師コルヴィッツと結婚するときまったとき、ひとつの忠言を与えた。それは妻となり母となるためには絵を捨てよ、という言葉であった。ケーテはその父の忠言に対して何と答えたのであったろうか。それは伝えられてい・・・ 宮本百合子 「ケーテ・コルヴィッツの画業」
・・・婦人は自覚、向上して、棄権しないように、という忠言もあちらこちらで聞かれる。けれども、率直にそれら二千百六十八万人の婦人の感想を求めたら、彼女たちの何割が果して今日における日本の女性の責任として、自分たちが急に与えられた権利を理解しているだ・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
出典:青空文庫