・・・が始まりましたが、鷹見はもとの快活な調子で、「時に樋口という男はどうしたろう」と話が鸚鵡の一件になりました。「どうなるものかね、いなかにくすぼっているか、それとも死んだかも知れない、長生きをしそうもない男であった。」と法律の上田は、・・・ 国木田独歩 「あの時分」
・・・近くなりてしばしまどろみぬと思うや、目さめし時は東の窓に映る日影珍しく麗かなり、階下にては母上の声す、続いて聞こゆる声はまさしく二郎が叔母なり、朝とく来たりて何事の相談ぞと耳そばだつれど叔母の日ごろの快活なるに似ず今朝は母もろともしめやかに・・・ 国木田独歩 「おとずれ」
・・・ながら現代の男女としてはかような情緒にほだされていわゆる濡れ場めいた感情過多の陥穽に陥るようなことはその気稟からも主義からも排斥すべきであって、もっと積極的に公共の建設的動機と知性とをもって明るく賢く快活に生きるべきであろう。 さて私は・・・ 倉田百三 「人生における離合について」
・・・ その言葉が、朗らかに、快活に、心から、歓迎しているように、兵卒達には感じられた。 兵卒は、殆んど露西亜語が分らなかった。けれども、そのひびきで、自分達を歓迎していることを、捷く見てとった。 晩に、炊事場の仕事がすむと、上官に気・・・ 黒島伝治 「渦巻ける烏の群」
・・・清吉の前では快活に骨身を惜まずに働いた。 木は、三百束ばかりあった。それだけを女一人で海岸まで出すのは容易な業ではなかった。 お里が別に苦しそうにこぼしもせず、石が凸凹している嶮しい山路を上り下りしているのを見ると、清吉はたまらなか・・・ 黒島伝治 「窃む女」
・・・と細君は主人が斜ならず機嫌のよいので自分も同じく胸が闊々とするのでもあろうか、極めて快活に気軽に答えた。多少は主人の気風に同化されているらしく見えた。 そこで細君は、「ちょっとご免なさい。」と云って座を立って退いたが、やがて・・・ 幸田露伴 「太郎坊」
・・・とさすが快活な男も少し鼻声になりながらなお酔に紛らして勢よく云う。味わえば情も薄からぬ言葉なり。女は物も云わず、修行を積んだものか泣きもせず、ジロリと男を見たるばかり、怒った様子にもあらず、ただ真面目になりたるのみ。 男なお語をつづ・・・ 幸田露伴 「貧乏」
・・・ と、宿屋の亭主は快活に笑った。 ややもすれば兄をしのごうとするこの弟の子供を制えて、何を言われても黙って順っているような太郎の性質を延ばして行くということに、絶えず私は心を労しつづけた。その心づかいは、子供から目を離させなかった。・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・ そのように、快活で愛嬌のよい戸石君に比べると、三田君は地味であった。その頃の文科の学生は、たいてい頭髪を長くしていたものだが、三田君は、はじめから丸坊主であった。眼鏡をかけていたが、鉄縁の眼鏡であったような気がする。頭が大きく、額が出・・・ 太宰治 「散華」
・・・その兵士は善い男だった。快活で、洒脱で、何ごとにも気が置けなかった。新城町のもので、若い嚊があったはずだ。上陸当座はいっしょによく徴発に行ったっけ。豚を逐い廻したッけ。けれどあの男はもはやこの世の中にいないのだ。いないとはどうしても思えん。・・・ 田山花袋 「一兵卒」
出典:青空文庫