・・・そのうえ、おじいさんは、体がふとっていて働けないせいもあるが、怠け者でなんにもしなかったけれど、けっして食うに困るようなことはありませんでした。「おじいさん、今年は豆がよくできたから持ってきました。どうか食べてください。」「おじいさ・・・ 小川未明 「犬と人と花」
・・・父親は、怠け者で、その子の教育ができないために、行商にきた人にくれたのが、いま一人前の男となって、都会で相当な店を出している。このあいだから、だれか信用のおける小僧さんをさがしてくれと、私のところへ頼んできているのだが、どうだな、苦労もして・・・ 小川未明 「空晴れて」
・・・殺すは悪、恵むは善というような意欲の実質的価値判断を混うるならば、祖国のための戦いに加わるは悪か、怠け者の虚言者に恵むは善かというような問いを限りなく生ずるであろう。東洋の禅や、一般に大乗的な宗教の行為の決定に形式の善をとって、実質の善をと・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・いい年をして、立派な男が、女房に言いつけられて、風呂敷持って、いそいそ町へ、ねぎ買いに出かけるとは、これは、あまりにひどすぎる。怠け者にちがいない。こんな生活は、いかん。なんにもしないで、うろうろして、女房も見かねて、夕食の買い物をたのむ。・・・ 太宰治 「懶惰の歌留多」
・・・ドイツ学生の中にはずいぶん不真面目らしい茶目や怠け者も居て一体に何となく浮世臭い匂がこの教室全体に漂っているのを感じた。自分は幸いにここでも図書室を自由に開放してもらって、読書したりノートを取ったり、また河のメアンダーに関する小さな「仕事」・・・ 寺田寅彦 「ベルリン大学(1909-1910)」
・・・食糧を貯蔵しなかった怠け者の蟋蟀が木枯しの夜に死んで行くというのが大団円であったが、擬音の淋しい風音に交じって、かすかなバイオリンの哀音を聞かせるのが割に綺麗に聞きとれるので、これくらいならと思って安心したのであった。 色々な種類の放送・・・ 寺田寅彦 「ラジオ雑感」
・・・そして、更に、如何にも彼自身がインテリゲンツィアであること、インテリゲンツィアが彼自身の怠け者の同族に向って感じる厭悪と憤懣とを制せられぬ口調で云っている。「あの手合いのようなお喋りを読む時、露骨に嫌悪を感じます。熱のある患者は食物を摂りた・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
出典:青空文庫