・・・ かくのごとき時代閉塞の現状において、我々のうち最も急進的な人たちが、いかなる方面にその「自己」を主張しているかはすでに読者の知るごとくである。じつに彼らは、抑えても抑えても抑えきれぬ自己その者の圧迫に堪えかねて、彼らの入れられている箱・・・ 石川啄木 「時代閉塞の現状」
・・・さればや一艘の伝馬も来らざりければ、五分間も泊らで、船は急進直江津に向えり。 すわや海上の危機は逼ると覚しく、あなたこなたに散在したりし数十の漁船は、北るがごとく漕戻しつ。観音丸にちかづくものは櫓綱を弛めて、この異腹の兄弟の前途を危わし・・・ 泉鏡花 「取舵」
・・・ イツの時代にも保守と急進とは相対立して互に相反撥し相牽掣する。が、官僚はイツでも保守的であって、放縦危激な民論を控制し調節するが常である。官僚が先へ立って突飛な急進の空気を醸成して民間から反対されたというは滅多に聞かない話であって、伊・・・ 内田魯庵 「四十年前」
・・・其作品の中には急進主義者の姿もあれば、時として保守主義者の姿の現われてくる事もある。然しそれ/″\の主義にはそれ/″\の信念があるもので、作品決してそれを見逃がしてはいない。信念の在るところ、容易にその善悪を定めにくい場合が多い。優れた芸術・・・ 小川未明 「囚われたる現文壇」
・・・よい姑と嫁がどうして衝突を、と驚かれ候わんかなれど決してご心配には及ばず候、これには奇々妙々の理由あることにて、天保十四年生まれの母上の方が明治十二年生まれの妻よりも育児の上においてむしろ開化主義たり急進党なることこそその原因に候なれ、妻は・・・ 国木田独歩 「初孫」
・・・ 政談の中に漸進論と急進論なるものあれども、あまり分明なる区別にも非ず。いずれにも進の義は免かれず。ただ、その進の方法を論じたるものならん。これをたとえば、飢たる時に物を喰うは同説なれども、一方は早く喰わんといい、一方は徐々に喰わんとい・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・四五年以上も経過してから、日本において、一つの急進的な性関係のタイプとして、イデオロギー的にコロンタイズムが流布したのには、またそれだけの社会的必然があったと思われる。 いわゆる、マルクス・ボーイ、エンゲルス・ガールという名ができたほど・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・ ペトログラード士官学校の急進的卒業生によって組織されたのだろうか? そうではなかった。グラトコフの「セメント」でわれわれがよんだように、工場の赤衛兵の発達したものであったろうか? そうでもない。ブジョンヌイという一人の農民出身で、戦術にか・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ダラディエの属していた急進社会党とレイノーの属していた中央共和派とは、フランスの社会生活全般に対してどんな見解の相異をもっていたかということや、ダラディエ一人の中にどんな自家撞着があり、更にどんな利害の対立をもっていたかということについて、・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・さらに、この年の春、日本の急進的文化団体への大規模の暴圧があり、治安維持法は政党以外の大衆的な団体も同列に罰することになった。 この錯雑した諸事情がからみあって、どんな紛糾を生じたかは誰にもよく想像されるであろうと思う。社会主義リアリズ・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
出典:青空文庫