・・・その要素を無視して、性器だけの交渉に中心をおくならば、すべての性的な行為は売娼の本質と等しくなってしまいます。なぜなら、そこに、人間的な選択、完全な結合、愛、同感、互の運命への責任等がぬかれているのだから。 人間を動物的に低める性的誇張・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ 現実のその苦しさから、意識を飛躍させようとして、たとえばある作家の作品に描かれているように、バリ島で行われている原始的な性の祭典の思い出や南方の夜のなかに浮きあがっている性器崇拝の彫刻におおわれた寺院の建物の追想にのがれても、結局・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・私たちこの精緻な人間が、性器に還元された自我しか自覚する能力がないとしたら、それは病的です。性的交渉にたいして精神の燃焼を知覚しえない男・女のいきさつのなかに、この雄大な二十世紀の実質を要約してしまうことは理性にとって堪えがたい不具です。文・・・ 宮本百合子 「一九四六年の文壇」
・・・は女の性器官のうちで一番大切な役目をもったものです。 その「子宮」が前屈したり後屈したりして婦人が苦しむのは、勤労の不規則な条件からだけだ。長い時間腰をかけたっきりでいる――長い時間立ったぎりでいると、 また、仕事のひまがなくて長い・・・ 宮本百合子 「ソヴェト映画物語」
・・・原始社会に広く行われた信仰の一つである性器の崇拝は、人間創造の自然力に驚嘆した我々の祖先の率直な感情表現であった。 こういう時代には人類の男女は生物的に自然に従えられていただけであった。だから山の獣が自然の魅力で異性を見出し、それに引き・・・ 宮本百合子 「人間の結婚」
・・・社会が未開であったとき、性の神秘は人間誕生のおごそかなおどろきとむすびあわされて、性器崇拝となった場合もあった。けれども日本のいまの肉体文学のように、人間の理性の働きの面を抹殺した性への溺死は、軍国主義やファシズムの人間性抹殺のうらがえしの・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
出典:青空文庫