・・・そうして、この品位は単に門地階級から生ずる貴族的のものではない、半分は性情、半分は修養から来ているという事を悟った。しかもその修養のうちには、自制とか克己とかいういわゆる漢学者から受け襲いで、強いて己を矯めた痕迹がないと云う事を発見した。そ・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
・・・徒らに高く構えて人情自然の美を忘るる者はかえってその性情の卑しきを示すに過ぎない、「征馬不レ前人不レ語、金州城外立二斜陽一」の句ありていよいよ乃木将軍の人格が仰がれるのである。 とにかく余は今度我子の果敢なき死ということによりて、多大の・・・ 西田幾多郎 「我が子の死」
・・・すなわち人生奇異を好むの性情にして、たとい少年を徳学に養い理学に育して、あたかもこれを筐中に秘蔵するが如くせんとするも、天下、人を蔵るの筐なし、一旦の機に逢うてたちまち破裂すべきをいかんせん。而してその破裂の勢は、これを蔵むるのいよいよ堅固・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・しかし実際はこの作家ほど深く確実に人間のあらゆる性情をつかんでいる者は、たぐいまれなのである。私はここに彼のつかんだ無数の真実を数え上げることはできない。ただ一つ、、彼の洞察した「神を求むる心」あるいは「信じようとする意志」について少しく観・・・ 和辻哲郎 「「自然」を深めよ」
出典:青空文庫